Division4 "Library"

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図書室

 私は、週末になると必ず本屋に行く。本屋そのものも好きだし、本も好きだ。幸い、京都には大型書店から、中堅どころの本屋や、古本屋まで本好きにはたまらない環境が整っている。このページでは、基本的に、その週に私が買った本を紹介する。たまにお金がなくて買わないときもあるので、そういう時は、過去に買った本とか、書店紹介をやったりするつもり。たまに同人誌なんかまじるかも。

  • 2004/04/30(火)

    神田神保町へ行き、ぶらぶらする。今回初めて行った、ブックブラザー源喜堂は、デザイン・美術書
    や、展覧会のカタログなどが豊富で、非常に楽しい。地階では雑誌のバックナンバーが充実してい
    る。また、普通の文芸書なども扱っている。


    「デザインの現場」、1998年10月号、500円で購入。


    このデザインの現場、という雑誌はいまでもあるのだが、やたら高い。この号が1800円で、
    いまは多分2000円くらいすると思う。だから面白そうだな〜という記事があっても、買ったこと
    がなかった。それが500円で買える。ありがたいことです。この号は、ヨーロッパデザインの日常
    系というタイトルで、イギリスの公共交通機関のデザインや、↑のテトラパックを特集。テトラパック
    が、スウェーデン製って初めて知りました。


    「博士の愛した数式」、小川洋子著、新潮社。500円で購入。


    この本を手にしたとき、わたしの友人が、「ハードカバーは絶対文庫になるから、欲しくてもじっと我慢
    する」といっていたのを思わず、思い出した。この本は、2003年8月発行だから、まだまだ文庫には
    ならないが、冒頭を少し立ち読みしたところ、とてもじゃないが、文庫が待ちきれなくなり、買ってしまっ
    ていた。記憶力を失った天才数学者と、家政婦の私、阪神タイガースファンの10歳の息子の物語。

    小説とはいえ、数学が出てくるなんて耐えられないっていうひとにも是非読んで欲しい、あたたかくて、
    さわやかさにあふれたラブストーリー。『せかいの中心で愛をさけぶ』なんて、SF小説の巨編からタイ
    トルをぱくった、現実感にとぼしい純愛小説なんかの1024倍は評価されてしかるべき。

    本をめくってみると、前の持ち主のしおりが挟まれていた。教文館で買ったもののようだ。
    「思い煩いは、何もかも神にお任せしなさい。神が、あなたがたのことを心にかけていてくださるから
    です。ペトロの手紙5:7」と、記されていた。


    源喜堂の次は、東京ランダムウォークへ。ここは藝術・美術・デザイン・サブカル書を扱った新刊書
    店。本のセレクトがとても好み。2冊も買ってしまった。


    「どこかに○いってしまった○ものたち」、クラフト・エヴィング商会著、筑摩書房刊、2400円。


    この本は、なんの本か、解説するのが少々面倒だ。中身を見れば一目瞭然かというとそうでも
    ない。皆さん、なんでもいい、明治・大正・昭和初期の「取り扱い説明書」を見たことがあるだろう
    か。今はもう失われた紙、装丁、そしてあの独特の活版印刷。この本は、そんな解説書ばかりを
    集めたもの。とってもただの解説書ではなく、もととなる商品はいずれも現存しない不思議な品物
    ばかり。硝子蝙蝠/記憶粉/万物結晶器/アストロ燈/立体十四音響装置/水蜜桃調査猿...
    etc,etc。名前を並べるだけで、不思議で怪しげ。でも明治・大正のベールをかぶると、どれもとん
    でもなくモダンな品物に見えてくるから不思議。ってそう思っているのは私だけか?

    いずれも現存しないこれらの「商品」を扱っていたのは、著者でもある「クラフト・エヴィング商会」。
    解説書の中身を豊富な図版で示しながら、もとの商品の全貌を探り、思いを馳せるという、興味
    ぶかいけれども、何の役にも立たない本。こんなもの買って読むのはよほどの暇人です。

    新刊本だ!と思って買ったのだが、実は初版第一刷は1997年。手にしたものは2003年の第十
    刷だから、かなりのロングセラーだ。よほど暇人が多いらしい。安心した。

    ちなみに、あまりこの本について、「こんなのありえない」などと、『真偽』について本気にならない
    方が精神安定上、懸命である。本書の冒頭にも、こうある。「本書に登場するものは、現在この世
    にないものであり、その実在が確認されておりません」と。


    「東京看板娘(トウキョウカンバンガール)」、Berreta P-04著、雷鳥社刊。2800円。


    タイトル見ただけで、すぐわかると思うが、東京およびその近郊のあらゆるお店の「カンバンガール」
    総勢225店舗、252人と3匹の写真集。女性のポートレイトということでは、以前紹介した「京都愛し
    の美女達」に似てるようだが、あちらが、「京都」を共通項にしたものとすれば、こちらは、いずれも
    自分の親のお店であったり、自分自身のお店であったりという違いはあれど、いずれも店をしょって
    る女性たちなのだ。働いている姿が美しいのは、男女を問わずだが、私が男である以上は、やはり
    女性のポートレイトのほうが断然良い。それに「看板娘」の響きが素直に好き。

    グラビア印刷ではない普通紙へのカラー印刷が味わいだしてるのと、紙の匂いがまたいい。

    さて、ここで上記2冊を買って気づいたのだが、どちらも装丁が上品な赤、小豆色に近い赤だ。
    しかも、東京ランダムウォークのブックカバーを見ると、これまた赤いストライプで、おそろいで
    ある。なんとなく嬉しい気分で、店を後にした。



    ストライプのブックカバー。


  • 2004/04/29(月・祝)

    半年振りに、東京青山の古書店「日月堂」へ。この書店は、古書以外に得意分野があって、それは
    いわゆる「紙もの」。ポスター、映画のパンフレットから、マッチのラベル、外国の鉄道旅行地図、
    広告、楽譜などなど。そんなものを買ってどうするのといわれそうなのだが、額装して飾るとこれが
    また、趣きのあるインテリアになるのだ。事実、日月堂には額装した状態で展示してあったりする。

    わたしの部屋には、現在ロシアアヴァンギャルドのステンベルグ兄弟のポスター(東京都庭園美術
    館での展覧会で購入したもの)が貼ってあるのだが、これと対になるようなものはないか?と思っ
    て今回やってきた次第。この3月に店主がパリから大量のロシアものを仕入れてきたらしいのだ。

    しかし、行くのがちょっとばかし遅かったようで、めぼしいものは売れてしまったとのこと。ステンベルグ
    兄弟のポスターの話をすると、「う〜ん、これに見合うのを見つけるのは、難しいなぁー」。で、代わりに
    ソ連がフランスで発行していた共産主義のプロパガンタ雑誌なんかどう?ということでいろいろ見せて
    もらったのだが、あまりにもアクが強すぎて、ちょっと胸焼け起こしそうな感じだったので、それは断
    念。いや、コラージュが多用されていてすごく面白いのだが、純粋にインテリアとしてはどうかという感
    じだったし、家に来たひとになんか誤解(笑)されるのもいやだったので。

    で、まぁ仕方ないので、今あるもののなかで、これはいいなと思えるのを探してきた次第。

    ドイツ、ガラス素材の瓦の広告。500円。


    建築雑誌によくこういう広告が挟まっているらしい。黒バックに黄文字のタイプが良い感じ。
    写真をつかわずイラストなのが、むかしっぽいが、デザイン的には古くない(と思う)。


    フランス、どこかの会社の債券。700円を500円。


    フランスには、「紙モノ」を専門に扱う店があって、これはそのなかでも、「債券モノ」を専門に扱う
    店で仕入れたものとのこと。「債券モノ」って、それだけで市場が成り立ってるのがスゴイ。なにやら
    オフィシャルっぽいハンコ多数のうえ、手書きのサインまで入っていてるがポイント。裏には使いかた
    が良くわからないが、チケットのようなものがついている。


    チェコ、建築雑誌(1962年)。1000円。(おまけつき)


    一見、小汚い古雑誌なのだが、まあその通りだ。これをどうするかというと、なかの記事やなんかを
    拡大コピーして、コラージュにしたり、そのままポスターにしちゃおう!という魂胆なのだ。(店主のアド
    バイス)え、それで、インテリアになるのか、と思うかもしれないが、チェコ語で書かれているというのが
    ポイント。なまじ英語なんかだと、辞書をひかなくても意味がわかってしまうので、面白くない。これが
    チェコ語となると辞書をさがすのですら困難で、そのうえ、アクサン記号などの見慣れないものがたく
    さんあって、タイポグラフィーとして、そのままポスターになってしまうのだ。



    で、この雑誌でもっとも興味をひかれたのが、最終ページについている↑これ。
    どうやら、この雑誌に掲載されている論文の著者の経歴?を別刷りにしたものらしい。なぜこれだけ
    別刷りなのか?しかも紙の質は本文に比べると極端に悪い。しかもタイプでそのままうったのを、ガリ
    版ずりしたのをはっつけたようなありさまで、非常に謎なのだが、この謎っぽさがイイ。なにやら、第二
    次世界大戦中の欧米の秘密文書のように見えてきませんか?見えませんか、そうですか。

    それはともかく、この、本来意味のある文字列なのに、意味不明で謎めいて見える感じに、とにかく、
    すごくひかれるのだ。これをそのまま黒バックに銀フレームで額装なんかすると、『歴史の重要通信
    記録』みたいに見えること間違いなし。そんな場違いなものが飾ってある、というフェイクはなかなか
    いいんじゃないだろうか、などと思うのだ。

    この建築雑誌は何号かあって、そこから選んでみたのだが、一冊だけ、建築計算の早見表らしきもの
    が付録でついていた。結局、別の号を買ったのだが、せっかくだからというので店主がおまけで、それ
    もつけてくれた。ありがたい。

    また、しばらく時間をおいて、紙モノを探しに行ってみたい。


  • 2004/01/11(日)

    京都に住んでいながら、京都の書店事情にはうとくて、東京の古本屋さんの口からその名が出てき
    たときは、ちょっと驚いた。その筋では、実は有名な書店、「けいぶんしゃ一乗寺店」に行ってきた。
    ここはいわば、本のセレクトショップ(古本屋ではなくて新刊書)。古今東西の本が、ぎっしり詰まった
    店内。といっても天井まで届く本棚というわけではなくて、とても余裕をもって見やすく、ジャンルごと
    にわかれている。落ち着いたこげ茶色の本棚に、電球色のあかりでとても落ち着いた雰囲気の店内
    は、居るだけで楽しい。

    今日はけいぶんしゃで買ってきた3冊。けいぶんしゃの本は、別にここでないと買えない、という本で
    はない。(そうでない本も多いけれど。)でも、確実に、ここでなければ、出会えない本だという気がす
    る。お店においてあるということと、その本を見つけることができるということは似ているようで違うのだ。


    『装丁/南伸坊』、南伸坊著、フレーベル館発行。2300円。



    南伸坊というひとは、あれだ、↑表紙の写真をみればわかるが、あのおにぎり顔のおじさんである。
    で、世間的にはイラストレーターや、エッセイストとして知られているが、実は装丁家でもある。いや
    本人は、装丁家という名前は立派過ぎるので、「装丁」がいいという。園丁や馬丁のように職人ぽい
    からだそうだ。

    この人の装丁の思考は実にシンプルで変に堅苦しいところがない。その本の内容やタイトルを素直
    にまとめあげたものが多いように思う。だから本を見たときすっと、中に入っていける。その本が読み
    たくなる。「これが南伸坊の装丁だ!」という変な主張がないからいいのだ。むろ装丁とは本来そうい
    うものなんだけれど、装丁に作家性が表れることは案外多いのだ。氏の本は、その逆、まさに本人が
    いっているように「職人」的なものが多い。だから面白い。

    最近、いろいろなところから「装丁」をまとめた本が出ているけれど、バラエティに富んでいるという点
    と、二ページは装丁の裏話、二ページはカラーでその装丁そのもの、という読みやすく見やすい構成
    になっている点が、ほかの「装丁本」にはない魅力である。




    西荻カメラ、やまだないと著、杉並北尾堂発行。1800円。



    やまだないと、という人は漫画家らしい。単行本もいっぱい出ているらしい。
    しかし、わたしは知らずにたまたま手に取った。まず装丁が良かった。日記帳やメモ帳みたい
    に布地にはく押しなのがイイ。中身は西荻窪に住むやまだ氏のひょうひょうとした生活を漫画
    と写真(ときどき写真とイラストがうまい具合に組み合わさっているのがgoo。)でつづったもの
    で、そのゆるやかさ具合が気に入ったのだった。西荻窪という場所は猫が多いらしい。そうい
    うわけで、猫がいっぱいでてきます。ビニールの封にも「猫になりたいですよ」とあるしなぁ。


    ちょっと大きめにしてみました。
    写真とイラストの組み合わせが良いのです。


    『子犬の生活 ダーシェニカ』、カレル・チャペック作、小野田若菜訳、ペトル・ホリー監修。
    ブロンズ新社発行。1400円。





    カレル・チャペックはチェコを代表する小説・劇作家で、まえに紹介したヨゼフ・チャペックの弟である。
    「ロボット」という言葉を創造したSF界の恩師みたいなひとである。(私は「山椒魚戦争」しか読んだこ
    とがないのだが。)

    その彼が、飼っていた犬ダーシェニカ(名前からわかるとおりレディである。)のことを綴ったエッセイ。
    本文中にしばしば出てくるイラストや写真はすべてチャペック自身の手になるもの。表紙を見るとこど
    も向けの絵本みたいに見えるけれど、犬好きならばどんな年代のひとが読んでも、うれしくて、ほほえ
    ましくて、顔がほころんでしまう、そんな本。

    監修者のペトルさんによると、ダーシェニカはチェコ人ならばだれもが子どものころに読み、映画や
    アニメにもなっているそうである。いつか、チェコにいったら本国版を手にしてみたいなぁ。


  • 2003/11/29(土)〜30(日)

    ぼくの伯父さんの喫茶店(カフェ)百科大図鑑、沼田元気(カメラとペン)、東京喫茶店研究所編
    ギャップ出版発行、2400円。
    東京ランダムウォーク神田店にて購入。



    ヌマ伯父さんの本は相変わらず装丁がこっている。


    101編からなる大図鑑。写真、図版、多数。


    大切なあの人への贈答のために、To Dear,From,Signature欄があるという凝りよう。


    ART&PUB(藝術と広告)展カタログ、セゾン美術館、朝日新聞社、1991年発行。
    古書日月堂にて、4500円で入手。



    ハンドブックサイズのカタログというのはあまりない。寝転がったまま読むのにはこのサイズが便利。
    ロートレックから、モダンアート、構成主義まで、「藝術と広告」を系統だてて詳細に解説。
    この時代のセゾン美術館のカタログは、質の高さゆえ、市場にほとんど出回らないという。
    (日月堂店主から伺った話)

    [モダン建築ディティール集]細部の神々、下村純一撮影、平凡社刊。
    古書日月堂にて、1000円で入手。



    世界各地の建築意匠を、ファサード、扉、窓、屋根、階段、柱、というテーマでまとめた写真集。
    美しさに息を飲む。こういう美術書は値段が高いのでおいそれと手を出せないものだが、
    古書店ならば手ごろな値段で買えるので、ありがたい。


    旧岩崎邸庭園パンフレット、財団法人東京都公園協会発行。
    旧岩崎邸庭園にて購入。600円。




    オールカラー30ページのなかに、旧岩崎邸の建築、美術、歴史をぎゅっと詰め込んだ
    パンフレット。デザイン会社への委託とはいえ、自治体発行のものとしては、出色の
    の出来。(右下は山Dが実際に撮影したもの)


    「伊能忠敬と日本図展」図録、東京国立博物館発行。
    東京国立博物館平成館にて購入。1500円(くらいだったと思う)




    実際の伊能図を見たことがあるひとはほとんどいないのではないだろうか。
    実物だけがもつ凄みというものがある。


    伊能図だけが地図ではなく、当然昔からさまざまな地図が作られた。(写真左)
    (写真右)図録の付録、日本沿海與地図(小図)のコピー。図録に付録というのは大変珍しい。


    東京国立博物館 法隆寺宝物館の建築、谷口吉生著、北島俊治撮影。
    東京国立博物館法隆寺宝物館にて購入。1000円。



    タイトルそのままの本。写真多数、文字は少なめ。ちょびっと高い。
    よっぽどの建築好きのひとしか買わないだろう本。でもちゃんと売ってるのは
    国立博物館ゆえか。


    国際アンデルセン賞の受賞者達(1956-2002)、国際児童図書評議会編著。
    メディアリンクス・ジャパン発行。
    国会国会図書館 国際子ども図書館にて購入。2000円。



    国際子ども図書館で開催されていたアンデルセン賞受賞作家・画家たちの展覧会にて
    販売されていたもの。受賞者達のプロフィールや、メッセージに図版多数の資料本。
    学芸員のひとが熱心に勧めてくれたので、こころを動かされて購入。書店売りはされて
    いないので、研究者以外のひとはここでしか購入できない代物。


    (番外編)
    第51回早稲田大学グリークラブ定期演奏会パンフレット。早稲田大学グリークラブ発行。
    東京厚生年金会館にて入手。(チケット代込み1000円)



    学生合唱団のパンフレットの構成などは、どこも似たりよったりであるから、特筆すべき
    点などはないのだが、唯一「ワセグリ用語集02〜03」については、ワセグリ独自の文化
    が垣間見れるもので、非常に興味深く読んだ。



  • 2003/10/05(日)

    チャペックの本棚 〜ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン〜、ピエ・ブックス発行、2500円。
    Book1st、河原町三条店にて購入。



    ヨゼフ・チャペックのことは、この本を買うまで知らなかったのだが、チェコの戯曲家、カレル・チャ
    ペックの兄である。グラフィックデザイナーとして、カレル・チャペックの著作のほとんどすべての装
    丁を手がけているばかりか、画家、戯作家としても、活躍したらしい。この本は、日本人のチェコ文
    学者、千野栄一氏が収集したチャペックの古本の装丁デザイン、約120冊を紹介したもの。

    チャペックのデザインは、「チェコ・アヴァンギャルド」といわれるものらしく、イラストと、文字の組み
    合わせが印象的で、タイポグラフィのはしりの存在らしい。実際集められた作品を見てみると、
    アヴァンギャルドという言葉からうける印象とは異なり、文字も線も手描きが多く、どこかしら温か
    みのようなものを感じさせる。同じアヴァンギャルドでも、直線的なデザインや、刺激的な色使い
    の多いロシアン・アヴァンギャルド(ステンベルク兄弟の戦艦ポチョムキンのポスターなど)と比べ
    ると、同じ旧共産圏とはいえ、その雰囲気がまるで異なるところが面白い。

    私は、これまで何度か外国に行っているが、本屋に入ったことはあっても古本屋にはいったことは
    ない。今度、ヨーロッパ圏に行くことがあったら、ぜひとも古本屋で、この本に載っているような、
    美しくも、のんびりとした装丁の古書を購入してみたい。


    ユリイカ9月臨時増刊号 総特集 川上弘美読本、青土社発行、1300円。
    Book1st、河原町三条店にて購入。



    ぽわーんとした美人。年齢不詳な感じ。
    (写真と実際の感じがあまり変わらない人。)


    川上弘美を知るには、対談は欠かせない。     都電の旅。こういう写真って難しいです。

    さて、川上弘美(作家)を紹介するのに、どういう表現が適当か?を考えてみて、小川のような
    文章、というのが頭に浮かんだ。あくまで、清明でとても穏やかな流れ。でもちゃんと手ですくえ
    る、確かな存在だろうか。「確か」という固い表現で置き換えられるようなものでもないかもしれ
    ない。私の書く文章では、うまく伝える自信がない。

    そんなことを考えていると、この読本に寄せられたある人の文章が、これのほかはない!と思え
    るほど的確にあらわしていた。「ひらがな的のんびり波動」。そう、文章でも、字に起こした対談で
    あっても(?)この人は、「ひらがな」でしゃべるのだ。「ひらがな」は比喩なのだが、そのゆるやか、
    ぬるやか、のんびり、ゆるゆるした雰囲気が、いつの間にか読者をひきこんでしまっている。そう
    いう不思議さがある。平易なことばの連続なのに、ちっとも平易に読めない。難解とは程遠い世界
    なのに、いったいここは、どこなのだ?という気分に浸されてしまう。そして、それが心地いい。

    この読本では、各界の著作家による川上弘美作品の解説、書き下ろし短編、対談が収められて
    いる。川上作品を呼んで、その魅力を言葉におきかえたい、と思ってうまくいかない人(私)は、
    必読。写真も多いので、隠れ川上ファン(私)は必携。


  • 2003/09/15(月)

    雑誌 「広告批評」No.274 '03.09 マドラ出版、630円。ジュンク堂京都店にて購入。


    赤いバッグに「ナナメの日」  小島淳二と組んでの映像作品も多い


    いわゆるお笑いや、演劇のチラシとは一風異なる  作品をまとめた本が発売中

    先月の佐藤雅彦特集の文章を書いたときに、方法論という言葉を使ったが、そのとき、「あれ?この
    方法論って、ほかにも誰かがいっていたような?はて?」と思っていたのだが、今月号の広告批評を
    見て思い出した。そう、「ラーメンズ」である。以前、ラーメンズの雑誌連載をまとめたものを紹介した
    がそこで、ラーメンズの台本を書いている小林賢太郎が「お笑いの方法論」を述べていたのだ。

    今号のインタビューでも彼は言っている。「ひらめきは使わない。」「この台本があれば誰がやっても
    おもしろい」と。笑わせるための方法というのがあれば、だれがやっても一緒というのだ。しかし、その
    台本を書けるのは、誰でもというわけではないから、そこに小林賢太郎の非凡がある。ラーメンズに
    関する知人関係者のインタビューで、「ラーメンズは極端に彼ら自身のキャラクターを消している」と
    いうようなことを言っていたが、これは小林の言葉と一致する。暗転で舞台が切り替わるたびに、彼
    らは新たな役柄となって登場するが、そこに彼らのキャラクターから想像できる登場人物はまったく
    存在しない。怪人?と呼ばれる片桐仁ですら、そうなのだ。こういう存在はかつてなかった。だから、
    おもしろい。

    それにしても、広告批評の約半分以上のページを割いての特集は、対談、インタービューに始まり、
    全コントタイトル、脚本採録、映像作品集、チラシ・パッケージ、二人のオリジナル作品ページと、
    ほとんど、彼らのオリジナルMOOKか、と思うほどの充実ぶりである。ファンならば、持っていて損は
    なし。


  • 2003/08/30(土)

    雑誌 「広告批評」No.273 '03.07/08 マドラ出版、630円。ジュンク堂京都店にて購入。(08/02購入)
    「佐藤雅彦全仕事」 広告批評別冊 マドラ出版、2900円。ジュンク堂京都店にて購入。



    雑誌広告批評を買ったのは始めてである。買った理由はひとつで、07/08月号の特集が、佐藤雅彦
    研究室特集だったからだ。佐藤雅彦研究室、とは最近よく聞く名前のひとつで、いったいなんなのだ
    ろうと思われる方もいるかもしれない。そう特にNHK教育を見ている人には馴染みがあるはず。



    NHKの教育番組?のひとつ、「ピタゴラスイッチ」の企画、製作に携わっている慶応大学SFCの名
    物研究室のひとつなのだ。この番組がおもしろいのは、それまでの子供番組になかった、人間の思
    考やアルゴリズムと表現、イメージと表現、言語と表現といった、数学的、コンピュータサイエンス的
    な視点を子供達に伝えようとしている点である。おそらく子供ばかりでなく、大人のファンも多い。

    この番組のなかには、研究室のワークショップで作られた角砂糖アニメーションや、アルゴリズム体
    操、線画のみによる「compute」されたアニメーションなどが次々と登場する。研究室の活動の成果と
    して、「任意の点P」という立体視の本も出版されている。こちらの立体視は、従来よくあった絵画や
    写真の立体視ではなくて、まったくの想像上の線画の世界を、立体視するという不思議なもの。

    特集ではワークショップの内容、佐藤雅彦教授のインタビュー、講義聴講録など、かなり充実した内
    容。ここで、佐藤雅彦とはいったい誰なのか?なぜ広告批評がこの研究室の特集をやるのか?と
    いう疑問が浮かぶ。そして、慶応SFCという今日の学校のなかで最先端をいく(卒業生のすべてが
    最先端ですごい人達ばかりなのか?という疑問はさておいて)なかにあって、なぜこの研究室が特
    異なのか?という疑問が浮かぶ。その答えは「佐藤雅彦全仕事」という本にある。



    そう、佐藤雅彦氏の前歴は、電通CMプランナーだった。手がけた作品はどれも伝説的なものばか
    りで、耳にしたことがない人はいないはず。湖池屋のスコーン、ポリンキー、サントリーのモルツ(モル
    ツ、モルツ、モルツ、モルツのあれ。ショウケンと和久井映見が出ていた)、ピコー、NECのあのバザ
    ールでゴザール。そして、CMではないが、だんご三兄弟など、など。

    耳にしたことがない人はいないはず、と書いたのは、視覚による印象よりも、聴覚にうったえる作品
    が多いことからだ。上の写真を見てもらうとわかるが、企画書のほとんどに楽譜が掲載されている。
    こういうCMソングの作曲や、作詞も佐藤氏がみずから手がけており、これは氏が独自に編み出し
    た、"ルール"のひとつ、「音楽が視覚を規定する」という手法にのっとって作られているから。

    佐藤氏が、CMプランナーをはじめたのは31歳で、それまでは電通の別の部署にいた。そこから、
    氏は古今東西のCMを分析し、自分なりのCMをつくるための「方法論」を編み出したのだ。それが
    "ルール"であり、"トーン"である。はじめに方法論を明確にした時点であとは大量生産ともいえる量
    のCMを質をおとさずに作ることができた、という。「佐藤雅彦全仕事」にはこの氏の理論の一端が
    氏自身によって解説されており、前半のCMの採録と企画書と同じくらい、興味深く読むことができる。

    この方法論ということば、別の場所でも耳にする。声にだして読みたい日本語の著者、斉藤孝氏だ。
    斉藤氏の場合、繰り返し行うことを、「型」として抽出し、それを磨き上げることこそ成功につながる、
    ということを書いている。また、週刊ダイヤモンドに連載中の記事では、ヒット商品から、何が売れる
    原因なのか?という「法則」を見つけ出し、新たな商品の提案を行っている。

    まず何かをする場合に、アルゴリズムなり、法則、方法を規定してから、進めていく。佐藤氏がいうと
    ころの「作り方を作る」という方策は、どんな仕事についている人にもあてはまる、とても有効な仕事
    術なのではないだろうか。

    ちなみに佐藤氏は大学時代、数学をこころざしたが、広告代理店という別の道を選んだ。しかし、広
    告の仕事を続けながらも、実は独学で数学の勉強を続けていたのだという。これは広告業界のひと
    は、最近までまったく知らなかったことらしい。SFCの教授となり、「数理と概念」という非常に専門的
    な講座を持っているのには、そういう確かな「裏づけ」があるからだということを忘れてはいけないと
    思う。CMを作っていた人=発想豊かな人、という方程式でくくれないものを佐藤氏は確かに持って
    いる。

    ここで紹介した二冊、是非二つをあわせて読まれることをお薦めする。


    甲斐扶佐義写真集「京都愛しの美女たち2001」
    八文字屋発行、頒価3000円。ジュンク堂京都店にて購入。




    甲斐扶佐義氏は、岡林信康氏とともに「ほんやら洞」を作ったひとである。「ほんやら洞」とは、京都
    の寺町今出川、同志社女子大学のすぐそばにある喫茶店である。といっても本当に喫茶店なのかは、
    知らない。実は京都に住み、同志社に12年通っていても、私の場合、生活の拠点の大部分が今出
    川になく、この店に入ったことがないからである。

    雰囲気を察するに学生や、特に文系、芸術系のひとたちのたまり場といった感じ。中学生のとき、前
    を通るとなんだか、大人、それも成熟した大人ではなくて、成熟しきっていない、どこかアングラな雰
    囲気を感じさせる大人ための場所という気がして、とても子供が入っていけるものではなかった。
    話が脱線した。

    この写真集は、甲斐氏が店にくる常連さんの女性を移したモノクロポートレイト集。実は、10年以上
    前から、氏が経営する居酒屋「八文字屋」の常連さんをうつした写真集がシリーズとして出ている。
    ほんやら洞の美女シリーズとしては、「美女365日」以来の二冊目だろうか?

    氏は、ほかにも京都の子供達や、猫を撮った写真集をだしており、その意味ではプロと言える。ただ、
    この美女写真集に写っているのは、ほんやら洞に来た女性達のスナップに近い。しかし、スナップの
    ようでありながら、モデル写真集ようなきりっとしたものも感じる。その理由は、被写体の女性達の
    美しさもさることながら、そのやわらかな笑顔、表情、確かな意思のやどった若々しい瞳のせいかも
    しれない。ページをめくるたびに目があう女性達にドキッとする。

    彼女たちの出身地はさまざまで、むしろ京都の人は少ない。しかし、ここに写る彼女ら、その周りの
    雰囲気は、言葉で明確に表せないが、ほんやら洞の雰囲気もあいまって、「京都の」という形容詞
    をつけたくなるのが不思議だ。京都の今出川近辺というは、同志社、同志社女子、京都大学が、
    密集し、京都でも代表的な「カルチェラタン」である。これら写真は、その「おもかげ」を色濃くのこし
    ていると思う。前作「美女365日」が70〜80年の美女であり、本作が00年代の美女であっても、
    この近辺の独特な雰囲気につかっているひとは誰でも「京都の学生街」という、時代を超越した
    場所の住人なのだなぁと思わずにはいられない。京都人の持つ、京都幻想なのかもしれないが。

    奥付を見ると、<限定300部>とある。また、価格ではなく、"頒価"とあるところからして、京都の
    一部の書店か、八文字屋、ほんやら洞でしか扱っていないものらしい。見かけることはすくない
    かもしれないが、手にとってみてほしい一冊。かならず写真、それもモノクロで、女性のポートレイト
    が撮りたくなる。


  • 2003/08/02(土)

    YONG KING COMICS「ジオブリーダーズ 9,<転籍と達成動機>編」
    伊藤明弘著 少年画報社刊 495円。ブックストア談京都店にて購入。



    (拳銃+拳銃)X3+大砲=?

    ヤングキングアワーズに創刊時から連載されている漫画。「化け猫」と呼ばれる、コンピュータ
    や電子機器に憑依し、暴走させる謎の存在に対し、これを退治することのできる唯一の会社、
    神楽総合警備の活躍を描く。「化け猫」とはなんなのか?なぜ神楽総合警備だけが、退治で
    きるのか?数々の伏線が張り巡らされたストーリー、神楽と同等の力をもつ"厚生省"の実力
    部隊ハウンド、彼らを操る厚生省の役人、入江省三、日本政府、自衛隊、米軍、ロシア軍など
    入り乱れて登場する数々のキャラクター、そして何よりそのB級ガンアクション!(褒め言葉)
    が魅力。

    神楽総合警備は、社長 菊島雄香、経理 蘭東栄子、銃(?) 梅崎真紀、車(?) 姫萩夕、プログ
    ラム 桜木高見と、田波洋一(+化け猫の"まや")の5+1+1で構成されている。女性ばかりの
    なかに男一人、ということでなんだ美少女漫画?と思われると困る。どの女性もわけありで、
    一筋縄でいかない連中ばかり。サービスシーン(?)も多いのだが、それが売りであったり、
    媚びであったりしない。あくまでアクション主体の活劇である。

    9巻は、8巻から連続で梅崎真紀ちゃんが主人公のガンアクション。それも昔の日活映画へ
    の完全なオマージュとなっていて、タイトルが「ダイナマイトが百五十屯」と来る。完全に宍戸
    錠とか赤木圭一の世界なのだ。化け猫は一切登場せず、真紀ちゃんと因縁のあるガンマン、
    用心棒、ヤクザが総勢100人くらい登場(笑)。しかし、よく読むと通底には本編の非常に重
    要な伏線が流れていることがわかり、それがまたにくいとしか言いようのない演出となって
    時折、表に浮かび上がってくる。

    それにしても、出てくる銃と薬きょうの数が半端ではない。しかも主だった登場人物はみんな、
    二丁拳銃だから、たまらない。9巻では、ほんとうにアクションの真髄を、映画でも見るかの
    ように見せ付けてくれる。銃を撃つ瞬間、体をひねってジャンプする瞬間、弾倉の交換、たまら
    なくかっこいい。一点限りのイラストではない、漫画だからこそあらわせる動きのなかの静止、
    の連続。これほど、どきどきわくわくするアクションには、映画でもなかなかお目にかかれない。

    山Dおすすめ漫画の一冊。なお、漫画以外に一部のエピソードがアニメ化されており、両方みな
    いと、エピソードのつながりや、登場人物の背景に関して、理解不能な点があるので、注意が
    いる。まあ、しらなくても十分楽しめる。(私もアニメは見てないが、だいたいわかる。というか、
    本編そのものが謎だらけなので。)


    雑誌 「東京人」 2003年9月号 都市出版株式会社 900円。ジュンク堂京都店にて購入。


    江戸開府四○○年「徳川将軍家展」特集 江戸東京博物館にて8/31まで開催

    そういえば江戸幕府開府が1603年。今年はそれから400年後の2003年だった。
    小学生のころは歴史もの、特に江戸モノに興味を持っていたのだが、最近はあまり
    関心がなく、東京人の江戸モノ特集も、過去のものは買っていない。今回購入した
    のは、小特集の「東京で星を見る。」が読みたかったからだ。もちろん東京でまとも
    に星を見るのはたいそう難しいが、その代わりにプラネタリウムというものがある。
    プラネタリウムの話題を中心に、火星大接近もからめての話となっている。

    子供のころ、京都は伏見深草にある青少年科学センターのプラネタリウムに、よく
    連れて行ってもらった。星そのものも面白くて好きであったのだが、私はなにより
    学芸員の方のナレーションが好きであった。プラネタリウムのプログラムにそって、
    テープではなく、生で聞えてくるナレーションの肉声のもつ臨場感、迫力というものが、
    子供ごころに強く印象に残っている。この夏は、ひさしぶりにプラネタリウムにいって
    みたい。


    ちくま文庫「遊覧日記」 武田百合子 著、写真 武田花 筑摩書房刊、520円。
    ちくま文庫「考現学入門」 今 和次郎 著、藤森照信 編 筑摩書房刊、1000円。
    ジュンク堂京都店にて購入。



    "遊覧"とはなにか?      "考現学"とはなにか?

    遊覧日記は、想像の通りエッセイ集。この本を知ったのは、先週買った散歩の達人「THE下町
    情緒」(交通新聞社刊。838円)というMOOKに、浅草や上野のことをつづったものとして、紹介
    されていたのを読んで。著者の武田百合子氏についてはまったく知らなかったのだが、じつに
    素直で、おもしろいと思うものをただ見物し、観察する、という好奇心にあふれた、それでいて大
    変上品な文章であると思う。

    ただ〜へ行って、〜しました、ということを書いただけでは、当然エッセイにはならない。しかし、
    この本のエッセイそれぞれを要約すれば、〜へ行って、〜しましたになるのだ。エッセイとそうで
    はないものの違い、それはやはり著者のものを見る目の違いであろう。その目の違いが、一見
    ただの日記にみえて、そうではないものに仕立てている。こういう本は何度も読み返すことがで
    きるのが良い。


    考現学入門。この本は、編者でもある藤森氏の解説から読むことをお薦めしたい。考現学とは
    そもそも著者の今和次郎(こん・わじろう)と吉田謙吉が、関東大震災直後からはじめた、「考古
    学」に対しての、今・現在の世相風俗というものを科学的に捉える学問である。具体的にいった
    いなんなの?というとたとえば、銀座を歩く婦人の髪型はどういう種類になっているのかとか、
    バラックの看板はどういうものがあるのか、雨どいの形や種類は?などなど。あらゆる現代生活
    のものを、観察し、記録する。それが考現学なのである。この学問の主流はいまでも生きている。
    世相風俗流行といった分野を扱うときに出くわすはずである。

    しかし、この本に集められた今和次郎の考現学の文章は、いささか趣がことなり、どちらかとい
    うと、路傍観察、つまり「モノ」の観察が中心になっている。これは解説にあるように編者の藤森
    氏が恣意的にそういう編集をしたのである。氏は、路上観察学会の創始者として有名だが、路上
    観察は、考現学の始まりとなった「モノの観察と記録」の部分を受け継ぎたいという思いで始まった
    ものである、という。考現学の嫡流は別にある。だから路上観察は「ままっこ」であるとも述べている。

    今和次郎の仕事については、別に全集が出ているので、この本は路上観察学の始祖たちの、父
    たる今和次郎への思い入れから編集されたもの、として読むのが良い。このあたりは私などの文
    章よりも、藤森氏の洒脱な解説をぜひお読みいただきたい。

    さて、考現学と学の字がつくため、その内容は親しみやすいものが多い反面、やはり学問的な側面
    が強い。そういうのはすこし苦手というひとは、純粋に「観察と記録」を実践している、「林丈二的考
    現学」(INAX BOOKLET、INAX出版刊、1500円)をお薦めしたい。「切符のパンチくずの収集と分
    類」「英字ビスケットの文字出現率」「プラットホームの白線の大きさと距離」「きつねうどんのあげの
    形分類」などなど、そうぞうするだけで楽しい考現学が満載である。


  • 2003/07/19(土)

    「コミックマーケット64カタログ」 有限会社コミケット発行 2300円。
    こみっくとらのあな日本橋店にて購入。



    一見なんでもない本。     しかし、横からみるとこの厚さ。総ページ数、約1300。


    サークル配置図。画面上の細かい四角の、さらに半分が1サークル。
    この紙は東1,2,3のもの。あと、東4,5,6と西1,2の分がある。

    コミックマーケット、通称コミケ、コミケット。世界最大の同人誌即売会にして、同人の大祭典。
    私が参加し始めて、かれこれ7年になる。毎年、盆と暮れに開催される。わたしの夏は、この
    コミケカタログの購入とともに始まり、コミケ3日目の終了を持って終わる。文字通り終わるの
    である。

    コミケの会場は、現在東京国際展示場ビッグサイト。その全館を借り切っておこなわれる。
    コミケのほかにビッグサイト全館使用するイベントはほとんどない。ビッグサイトにいったこと
    があるひとならば、これがどれだけの規模のイベントであるか理解できるはずだ。この全館
    を、本を求めて10数万人の参加者が真夏の館内を大移動する。(危険なので、絶対走って
    はいけないのがきまり。)それも両手に何kgもの本を抱えて。

    入場するまでがまた大変だ。私の場合、午前6時に東館の待機場所である北1駐車場に
    到着するのが常。そこから4列縦隊で約50組、1組400人強の列に並ぶ。入場が開始され
    るのは10時。6時に着くとだいたい10時半〜50分の間には入れる。その間、4時間。ひざし
    をさえぎるものはなにもないアスファルトの駐車場で、座って待機する。ひたすら待つ。
    あなたはその様子を想像できるだろうか?しかも入場が開始されて終わりではない。そこ
    からコミケは始まるのだ。これが16時まで、3日間続く。一日2万5千歩。荷物は10kg。

    3日目が終わると、精も根も尽き果てる。

    本を買った充実感、新しいサークルを発掘した喜びをエネルギーにして、なんとか我が家まで
    「帰還」するのだ。冬の再会を誓って。もうこれ以上の「夏」はない。全身全霊を傾けて、コミケ
    に対峙するのだ。だから、コミケの終了とともに夏は終わる。次の日からはもう冬なのだ。
    (同人歳時記)夏が終わるとかなりの放心状態になる。過ぎ去った夏を思い、なんだか切ない
    ような、哀愁まで感じてしまう。

                               *****

    コミケというと、マスコミではすぐに「コスプレ」のくくりで報道されるのだが、これは大きな誤り
    であり、コスプレはコミケにおける「表現手段」のひとつにすぎない。コミケットの中心はあくま
    で、同人誌(本)である。

    このカタログは、それら本を売るサークルの「サークルカット」が掲載されたものである。たて
    4.5cmXよこ3.5cmのスペースに、うちのサークルはこんな同人誌を売ってるんです!という
    情報をこめる。たいていは絵である。参加者はその絵を見て、お目当てのサークルを探す。

    カタログを見ると、どれもみんな同じ絵のようでいて、実は作者の個性がにじみでているのが
    わかる。慣れるとサークル名がわからなくても「あ、あの人の絵だ!」と一発でわかるように
    なるものだ。

    カタログを買ってから、参加当日まで、サークルチェックといってお目当てのサークルを、配置
    図上に記入し、当日のルートを設定する。なにせ、同人誌だから部数がすくない。お昼まえに
    完売することは珍しいことではないから、ルート戦略を誤るとほしいほんがひとつも買えない
    なんていう事態になりかねない。

    カタログなんてなくても、会場にいけばなんとかなる!と思っているとひどい目にあう。なにせ
    会場の広さが尋常ではない。お目当てのサークルはおろか、おなじジャンルの本がどこに
    配置されているのか、歩きながら見つけるのは不可能である。いや可能かも知れないが、
    かなりに体力と精神力を必要とするのは確かだ。

    だから、写真のように異常な分厚さでも、必ず購入して、持ち歩く。(実際には、自分で一日分
    ずつ分冊するのがベスト!)

    もし、ここを読まれている方で、コミケに参加(サークルではなく、本を買う人もコミケの参加者
    であり、『お客さん』ではありません。注意。)したいと思ったら、近くのコミケ参加者か、わたしと
    面識のある人ならば、私に相談してください。初心者がひとりで行くのはかなり大変です。
    何もしらずに、何の準備もせずに一般参加行列に並んだりしてしまうと、熱中症で死んでしまい
    ます。


  • 2003/07/12(土)

    「路上の神々」 赤瀬川原平著、佼成出版社刊 1500円。ジュンク堂京都店にて購入。



    暗室にも書いたが、著者の赤瀬川氏は路上観察学の始祖として知られる。路上には、さまざまな
    偶然があふれている。でもわれわれは普段それにまったく気がつかない。それどころか、たとえ、
    この本のように、その偶然を、写真という形できりとったとしても、いったいそれがどうしたの、とか
    なぜこの写真が面白いのか、どこが「偶然」なのかわからないひともいるだろう。路上観察学とは、
    偶然をさがしだす嗅覚もさることながら、その想像力による「見立て」る能力を必要とする学問だ。

    この本のまえがきは実に興味深い。路上の偶然と「神」の存在を問う(?)考察がじつに平易にわか
    りやすく書かれている。宗教の本ではむろんないのだが、路上観察学というものは、宗教や哲学
    すらふくまれる奥深いものなのだ。ちなみどこの大学でもこの学問は教えていない。ほとんど趣味の
    世界だから当然だ。でも、趣味だからこそ、時間をかけ、お金を(少しばかり)かけ、精神を費やす
    「価値」があるのだと思う。家を一歩出れば、そこは路上観察のフィールドである。

    『路上には多くの無意識が隠れている(中略)神とはいわないものの、その残り香というか、さっき
    までそこにいた椅子の温もりというか、そんなものがかいま見えて、フィルム消費が進む。』
    (まえがきより)


  • 2003/07/06(日)

    「類語大辞典」 柴田武 山田進 編、講談社刊 6500円。Book 1st 河原町三条店にて購入。



    前から欲しかった辞典をとうとう買ってしまった。類語辞典はその名のとおり、ある言葉や言い回し
    について、別の言い方を集めたものであるが、これまでこれほど大規模で体系的なものは、実は
    出版されていなかった。ふつうの辞典とちがって、あいうえお順ではなく、ある体系にしたがって
    言葉がならぶ。まず大項目はカテゴリである。これはかなり特長的だ。「生きる・死ぬ」にはじまり、
    「愛する・好む」「敬う・信じる」「強い・弱い」「ない・なくなる」など100のカテゴリがある。そのなか
    で、動詞・副詞・形容詞・形容動詞・名詞にわかれている。「類語」の辞典を作るにあたり、この
    「いかにして分類するか」ということがもっとも難しい作業であったようだ。

    手紙を書いたり、メールをうったり、報告書を書いたりするとき、同じ意味の言葉を連ねるのは、
    なんとくなくつまらないし、文章のリズムから言って退屈だ。そういうとき、自分の思い描くイメージ
    にあてはまる言葉を探すのに大変役に立つ。もともとボキャブラリーの豊富なひとにはあまり必要
    ないものかもしれないが、そういう時はただ、読むだけでも面白いと思う。

    そいういえば、昔、親に「三島由紀夫は広辞苑を全部読んだ」などと聞かされて、一度挑戦したこと
    がある。当然ながら「あ」を読み終える前に飽きてしまい挫折した。

  • 2003/07/05(土)

    雑誌 「東京人」 2003年8月号 都市出版株式会社 900円。ジュンク堂京都店にて購入。


    今月は夏らしく涼しげ     ホテル建築を堪能する


    見るからにおいしそう。飲めないけど。

    東京人、今月の特集は「東京のホテル新発見、再発見」、小特集は「ビールの穴場。」
    東京はいま再開発ラッシュである。品川・汐留・六本木・丸の内とつぎつぎと高層建築が
    姿を現している。それにともない新規開業のホテルが増えているのだ。この特集では、
    それら新規ホテルと、老舗ホテルの食・建築・美術に焦点をあてている。ここに登場する
    ホテルは皆高級ホテルばかりで、とてもお気軽に泊まったりすることができないのが、
    残念である。上記の写真にあるホテルオークラのロビーは建築の世界では伝説的な空
    間である。泊まらなくても入れるのでぜひ一度この目で確かめてみたいと思っている。
    東京人の小特集ではよくお酒にまつわる企画を取り上げる。今回は直球でビール。
    わたしは酒が飲めないので、こういう特集くらいくやしいものはない。もし、ここでとても
    気に入ったお店が見つかったとしても、酒が飲めないと、誰かを誘ったり、誘われたりし
    て、その味や、空間や、雰囲気を分かち合うことができないからだ。「素面」で「酔う」の
    は結構難しいもんです。


  • 2003/06/28(土)

    INAX BOOKLET「ディティールがつくる風景 タイル・レンガ・テラコッタ紀行」
    INAX出版発行、2000円。ジュンク堂京都店にて購入。



    ちょっと変わった判形。     タイルといえばイスラム建築。


    世界の街角でみかけるタイル、テラコッタ装飾。

    INAX出版をご存知だろうか。そう、みなさんトイレやお風呂で見かけるあの、INAXの出版部門
    である。いったいなんでINAXが?と思われるかもしれない。実は、INAXのライバル、TOTOに
    も、TOTO出版というのがあるのだ。ますます意外でしょ?両出版部門の書籍に共通するのは、
    「都市文化・建築文化」が中心であるということ。どちらの会社も、建築における内装であるタイル
    ・陶磁器製品(トイレ・洗面所)を製作することを商売としてきたからか、一般の建築会社などに
    くらべて、人間と建築、文化と建築という、建築の内面性に対して、強い思い入れがあるようなの
    だ。

    ここで紹介するINAX BOOKLETは、この本単体で存在するものではなく、INAXの文化活動の
    ひとつ、INAXギャラリー(東京・名古屋・大阪)での展覧会企画と連動して作成される、いわば、
    展覧会の図録、いや、副読本といった位置づけの書籍なのである。この活動は22年も続いて
    おり、図録の点数は100近い。

    今回のタイル・レンガ・テラコッタ紀行は、INAXの原点ともいうべき「タイルシリーズ」のひとつ。
    (INAXは常滑市に「タイル博物館」を開館している。)私のHPのトップ写真にもレンガ建築の
    写真があったと思うが、これら街角の装飾は、土と火で作られる単純なものでありながら、
    建築全体のイメージを一瞬にして決めてしまうほどのパワーと美しさを持っている。

    れんがといえば、赤レンガ、タイルといえばキッチンの壁しか思い浮かばないひともいるかも
    しれない。テラコッタってみたことないという人もいるかも。でも本当はそんなことはない。日本の
    街中にも、実はたくさん存在していて、皆目にしてるはず。気づいていないだけだと思う。都市の
    ディティールを形作る「レンガ・タイル・テラコッタ」たち。この本で予習してから、街を歩いて小さ
    な主役達を見つけてあげて欲しい。それを見つけたとき、その美しさが、まちの美しさが、誇らし
    くなると思う。


  • 2003/06/21(土)

    「スタジオジブリ絵コンテ全集第II期 劇場版じゃりん子チエ」監督:高畑勲 絵コンテ作画:大塚康生
    徳間書店発行、2800円。ジュンク堂京都店にて購入。




    じゃりん子チエは大阪が舞台の漫画である。くわしい説明は他にあるだろうからここで省くが、
    子供のころ、セリフがすべて大阪弁で書かれていることに少なからずショックを受けた。
    「これ買うて」は「これかうて」ではなく、「これこうて」なのだ。私は京都の人間だからすんなり
    読めたが、他の地方の方にとっては読みにくい漫画だったろう。ほとんどの漫画や、TVアニメが
    標準語ばかりのなか、異彩をはなっており、何か関西共有体?の魂というか、こういう漫画が
    あることが、むしょうに誇らしかった思いがある。むろんお話やキャラクターの破天荒さも魅力
    だった。97年に連載が終了するまで19年間も週刊連載された。原作は、はるき悦巳。

    その劇場版の絵コンテを収録した本である。アニメの場合、脚本も大事なのだが絵コンテはもっと
    重要な役割を持っている。絵コンテそのものにフレーミングや、演出、音響の指示など、完成形の
    要素がすべてつまっており、まさに設計図なのだ。だから、映画のコンテの絵のようにラフなもの
    ではなく、ほとんどの場合、実際の作画に近い形で書かれることが多い。だから、映画を漫画の
    ような感覚で楽しむことができる。動きはなくても「演出」がわかるので想像しながら楽しめる。

    この絵コンテを手がけたのは、作画監督の大塚康生氏。ルパン三世シリーズの作画で有名な方。
    その、「漫画映画らしい動き」は絶品である。ときどき、4ch(毎日放送)で再放送されるので、
    興味のある方、ぜひ見てください。


    「東京スーベニイル手帖 〜僕の伯父さんのお買い物散歩ブック〜」 沼田元氣 著、森 綾 装釘
    白夜書房発行 2400円。ジュンク堂京都店にて購入。



    カバー・帯つき状態      カバーをとると...      


    洋菓子編                          和菓子編


    本編                             包装紙コレクション

    なんというか、東京のお土産コレクションいうのが適切だろうか?著者の沼田元氣氏は、雑誌
    「東京人」で、「僕の伯父さんの喫茶店案内」などを連載する「写真詩人(ポエムグラファー)」。
    独特のしゃれっ気のある文体と、あじわいぶかい写真が持ち味。この本は、そんな氏の「たのし
    いこだわり」が随所にあふれた"小物箱"のような本だ。和菓子、洋菓子、雑貨、文房具、
    ファッション、本編などににわかれている。

    なかでも、おもしろいのが「包装紙コレクション」。実際にお店でつかわれている包装紙がそのまま、
    一ページまるごと掲載されている。世間では簡易包装が推進されるご時世だが、このコレクションを
    みると、「包装」というものが、いかに文化的な行為であるか思い出させてくれる。

    もうひとつ特長的なのが、装釘・デザインである。本文の内容だけでなく随所にちりばめられたきり
    絵風の文字や、創作された東京各地の"記念スタンプ"など、「本」そのものを楽しむことができる
    つくりになっている。全ページフルカラーで、値段は少々高いが、文句なしに、見て読んで、眺めて
    楽しい本である。


    雑誌(書籍扱い)「カメラジャーナル」 123号、主筆 田中長徳、編集発行人 中川右介
    505円。アルファベータ発行。ジュンク堂京都店にて購入。


     

    タイトルの通り、これはカメラ雑誌であるが、普通のカメラ雑誌とはひとあじもふた味も違う。
    ひとつは、カメラ会社からの広告を一切もらっていないということ。もうひとつは、 主筆がいること
    である。

    カメラ会社の広告がないということは、メーカーに遠慮せずにカメラの批評ができるということで
    ある。また、主筆とはその名の通り、雑誌の主な執筆を担当する。この雑誌の場合100ページ
    (3段or4段組み、縦書き)の3分の2近くを主筆の文が占める。いまどき主筆がいる雑誌などあ
    るだろうか?いや実際にいたとしても、それをわざわざ明記する雑誌はもうないだろう。

    この雑誌の主筆は田中長徳、写真家にしてカメラコレクターである。スナップ写真を得意とするシリ
    アスフォトグラファーである。ライカをはじめ、古今のあらゆる中古カメラのコレクターとしても有名だ
    が、何よりもその文章が独特である。論客といっても良いほどの哲学的な文章で、他雑誌のメカ
    ニカルライターなどどは、一線を画している。

    そもそもこの雑誌では、カメラのハウツーや、メカニックの話はまずほとんどない。そういう記事は
    他誌に任せた!という感じで、むしろそのカメラはどういうふうに使うべきなのか、どういう存在で
    あるべきなのか、あるいは写真というものの持つ意味を追求した記事や、文章が多い。堅苦しそ
    うに聞えるが、これがなかなか、脳ミソのみぞを掘り返すように、コチコチに固まった我々のカメラ
    感に、新しい認識を与えてくれて、毎回新鮮である。また、毎回テーマを変えた読者投稿があるの
    も特長。

    氏自身、とても気さくでひょうひょうとした方なのだが(3回ほどお会いしたことがある)、その文章
    や思考はとてもアクが強いので、好き嫌いが分かれるところかもしれない。いわゆる「自然写真家」
    「動物写真家」といったメジャーな写真家連とは、距離を置いており、森山・荒木・高梨といった
    第一世代のシリアスフォトグラファーのあとを継ぐ、第二世代の孤独な旗手ともいうべき写真家であ
    る。夫人は声楽家の浅井暁子。夫人のウィーン留学で、7年間ほどウィーンに滞在した経験が、
    ある種、日本の社会やカメラ・写真業界を客観的にとらえる氏独特の視点を培養したようだ。

    さて、こんな稀有な雑誌だが、創刊10年を迎えて、なんと休刊することになった。発行元のアルファ
    ベータは、編集長の中川氏がほぼひとりで切り盛りする中小出版社である。気骨ある出版社だが、
    経営は厳しいようだ。休刊の理由はいろいろあるらしいが、編集長いわく、経常的に無理をして、
    カメラ雑誌をだすこと意味を見つけられないからとこのこと。そう、カメラ業界は停滞の一途であり、
    中古カメラブームも一次の勢いはないため、カメラ本は売れないのだ。(むしろ中古カメラ人類に
    とってはブームによる価格の高騰がない分、良い季節になったといえるかもしれない。)

    読む雑誌が減ってしまうのは悲しいことだが、田中長徳氏が引退するわけではないし、アルファベ
    ータが倒産したわけでもないので、別の形で「ほかにはない」本を出し続けていって欲しいもので
    ある。


  • 2003/06/14(土)

    「配色アイデア見本帳」 石田恭嗣 著、MdN発行、2500円。ヨドバシカメラ梅田にて購入。



    広告などのデザインが好きで、自分でもたまに合唱団のチラシのレイアウト案とか、CDのジャケット
    を作ったりする。その際、難しいのが配色。専門的に勉強したわけではないので、とにかく勘に頼っ
    ていた。そこで見つけたのがこの本。「色」の基本から、その配色がどういう広告によく使われるの
    か、どういうイメージと結びつくのか、といったことが豊富な実例とともに解説されている。ひさしぶり
    に、実用的な本を買いました。デザインに興味のある方、おすすめの一冊。


    雑誌「時計Begin」 2003年夏号、世界文化社発行、700円。ジュンク堂京都店にて購入。
    (写真は付録のバーゼル・SIHH特集。)



    私が、時計好きなのは「電波暗室」をお読みの方はわかると思う。ただ、時計雑誌は定期
    購読しているわけではない。時計の世界では、毎年4月にスイスで行われる「バーゼルフェア」
    や"SIHH"という見本市にあわせて新作を発表するのが常。そこで、たいがい5月か6月に出る
    新作速報が載る雑誌や、ムックを買い、一年間くらいそれを眺めてニヤニヤするのである。
    大概、簡単に手が届く値段ではないけれど、丹念にさがすと、お手ごろで納得のいくつくりの
    ものに出会えることがある。人間なにごともあきらめないことが肝心である。

    ちなみに写真に写っているIWCの新作は、315万円。宝くじでもあたんないと手に入りません。
    でもあたらないとは言い切れないので、常に情報はインプット!

  • 2003/06/11(水)

    「ラーメンズつくるひとデコ」 太田出版 1280円。けいぶんしゃにて購入。



    ラーメンズとは、小林賢太郎と片桐仁のふたりによる、お笑いコントコンビである。舞台での公演が
    主で、TVではNHKのオンエアバトル以外ではコントをやっていないと思われる。二人とも美大出身
    という異色。とにかく綿密に練られた脚本と、戯曲のような構成、徹底した人間観察とことば遊びが
    魅力。

    ことばにしてしまうと、なんだか面白くなさそうなのだが、一度これは見てもらわないとなかなか伝わ
    らないと思う。私がラーメンズを知るきっかけは、合唱団のある人に薦められて。お笑いを見て、久
    しぶりに涙がでるくらい笑った。

    その二人の本。内容は雑誌クイックジャパン誌に連載されているものをまとめたもので、前半が、
    小林賢太郎と各種業界のひととの対談。後半が片桐仁が講師のひとについて「なにかをつくる」
    というもの。

    ラーメンズのコントの脚本は100%、小林賢太郎が書いている。この人はとにかく、するどくて
    賢い。何重にも壁をはりめぐらして、本心を見せようとは決していしないタイプ。そして、そのことを
    自覚している。インタビューの端々に、コント書くにあたっての『「公式」の研究』についての発言が
    見え隠れし、ラーメンズの舞台がどのようにつくられているのかが、よくわかり興味深い。

    相方の片桐仁は素で面白い人。発言とかリアクションとか、とにかく大げさで楽しい。この本におさ
    められているのは、「テディベア教室」「フラワーアレンジメント教室」「セルフポートレイトを撮る」など
    なんだが、その文章はとにかく片桐節炸裂で、掲載写真とあいまって、前半の小林賢太郎の知的な
    世界とは正反対なのが、楽しい。写真右側のアンケートはがきは、彼のフリーハンドで書かれてい
    て、これだけで笑える。

    ラーメンズの本なので、ラーメンズの舞台を知らないひとはまず買わないだろう。買って読んでも、
    それなりに楽しめるのだけど、小林節や片桐節を知っていて読むのとでは大違いなのは当然。
    まあ、この文章を読んだ方々、まずはレンタルビデオ屋でラーメンズ、探して、見てください。


  • 2003/06/07(土) 

    雑誌 「東京人」 2003年7月号 都市出版株式会社 900円。ジュンク堂京都店にて購入。



    わたしが、毎月購読している雑誌。一見すると、「BRIO」「サライ」「エスカイヤー」といった、親父
    雑誌と同系列に見えるのだが、実は全然違う。この雑誌は「都市を読み解く」ための雑誌なのだ。
    こういう系統の本は、ほかには「大阪人」しかない。この「東京人」が切りひらいた独自の分野だ。

    その性格から、「建築」を扱った特集が多いのが特徴であり、内容はあくまで硬派で、質が高い。
    建築といっても先にあげた親父雑誌がノスタルジーで取り上げる「日本洋風建築」だけでなく、
    東京の再開発計画(六本木や汐留、品川など)なども総合的に取り上げる。

    執筆人もいいところそろえている。松葉一清、川本三郎、藤森照信、坪内祐三、青山南、猪口
    邦子、鹿島茂、五味文彦、松岡和子、川上弘美、と多彩であり、読んでいてもあきがこない。
    また、本文中には写真が多く、文章量のわりには、「見て」楽しめる点もいいところだ。

    なぜ、京都人であるわたしが、東京人などという雑誌を読むのか。それはひとつは、建築が
    好きであるから。そしてもうひとつは、東京という新陳代謝の激しい町において、流行にながされ
    ず、かといってノスタルジーにとらわれすぎず、地に足をつけて、建築が示す都市の可能性である
    とか、動きであるとかをつぶさに見つめようという、そういうまじめな視点がこの雑誌にはあるから
    である。

    この雑誌が、創刊されて15年近くの時が経つが、創刊当時はやはり赤字であったという。
    いまは、こうやって京都でもこの雑誌が読めるくらいなのだから、それなりに売れているの
    だろう。こういう雑誌を読書人はきちんと支えていかねばならないのでないかと思う。

    この雑誌を読み始めて、私は東京が好きになった。


    書籍 「初めてのPerl」 Randal L. Schwartz, Tom Phoenix 著、近藤嘉雪 訳
        オライリージャパン発行、オーム社発売 3600円。ジュンク堂京都店で購入。



    プロフィールのどこかに、会社に入ってPerl(プログラミング言語)を覚えた、と書いた。
    なのに、なぜいまさら「初めての」などという入門書を買うのか、といぶかしがる方もいる
    だろう。実は、これは第3版で、わたしは初版をすでに読んでいる。だが、それは私の本
    ではなく、先輩の本だった。

    わたしは、初版の本を先輩にしょっちゅう借りて、最終的にはPerlでひとつのシステムを
    つくりあげることができた。この本は入門書のなかでは大変わかりやすい。もともと、
    Perlのトレーニング教材として作られたものを本にしたのだから当然かもしれない。

    ある程度、わかるようになってきても、こういうことを実現するには、こういうソースを
    書けばいい、という具体例が多いため、大変参考になる。外国図書特有のジョークも
    多く、わたしにはそれがよくあった。(それがいやだという人も多い。)

    さて、その初版をかしてくれた先輩が6月で異動してしまい、先輩はほかのシステムや、
    HTML関連の書籍は残して言ってくれたのだが、さすがに初版本だけはくれなかった。
    この初版本はハンドブックサイズで上の写真のものより一回り小さいというのも魅力だった。
    おそらく人気があるのだろう、中古市場でもほとんど見つけることができないのだ。

    というわけで、これからもPerlでシステムを組んだりする私にとっては、新しいPerlの本を
    買う必要に迫られた。Perlの命令や、書式は別のリファレンス本をもっているので、
    それをみればいい。でも、コーディングのとっかかりをつかむのには、私にはこの本で
    なければならないのだ。相性といってもいい。真のプログラマーから見れば、入門書を
    読み続けるプログラマーなどたいしたことないのだろうが、それでも私は私の流儀で
    コーディングを続けるためにこの本を座右に置き続けると思う。

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