佐竹氏との出会い


 平成になったばかりの頃のこと。
 十代だった私は札幌市のある区役所のロビーにいた。
 どこのお役所でもそうだと思うが,ロビーの待合所のいすの横にはパンフレット置き場があった。
 国民健康保険とか税金のパンフレットがおいてある,あれだ。
 普段ならそんなところを見ることなどない。あのとき,どうしてそこを見ようと思ったのだろう。

 何気にわたしはパンフレットを一瞥した
 すると,眼の端に,一冊だけ他と何か違うものが映った。

「秋田観光ガイド」

 ?
 何故,札幌に秋田の観光ガイド?
 ここが近○ツーリストとかの窓口なら話はわかる。
 しかし,周りにあるものは「健康診断の案内」だの「住居表示番号変更のおしらせ」だのしかないような ところに,1冊だけ,何故?
 興味をそそられて,その観光ガイドを手に取り中を見た。
 目次には,よくある秋田の観光スポットや交通機関の紹介が載っている。
 しかし,そのなかにひとつだけ私の目を引く見出しがあった。

小説 佐竹氏

 ・・・・・・

 その頃の私が佐竹氏について持っていた知識は大したものではなく,常陸の大名で, 関ヶ原で東軍裏切ったやつ,程度の認識だった。
 しかし,当時から時代小説が好きだった私は興味を引かれて,暇つぶしに読み始めた。
 小説は,佐竹義重と佐竹義久の二人を主人公に,佐竹氏が全盛を極めた戦国末期を描いたものだった。
 私は,小説が描く北条氏との戦いに明け暮れる青年武将義重と,義重を補佐する義久に魅せられた。
 佐竹氏がいかにして戦国を生き抜き,関ヶ原を戦ったかを知り,自分の無知を恥じた。
 武田信玄や上杉謙信,織田信長の話は見聞きしたときには感じなかったものを私は感じていた。
 たった4ページの短い小説を何度も,何度も,読み返していた。
 私は,その観光ガイドを持ち帰り,毎日それを持ち歩き,ひまがあればその小説を読んでいた。

 秋田観光協会さん,ありがとう。
 あれ読んでなかったら,ここで私はこんな事書いてないです。(そりゃそうだ)
 あのときの観光ガイドはボロボロになるまで持ち歩いてましたが,引越しのときになくしてしまいました。
 まあ,ほかの人が見ればゴミにしか見えなかったろうしな。

 最近になって,もう一度あれを読みたくなり,札幌にある秋田観光協会に行ってきました。
 しかし,そこにあったガイドにはすでに小説は載ってなく,そこにいた秋田のかたがた(だよね?)は, 観光ガイドに小説が載っていたことを知りませんでした。
 だれか,あの小説の作者を知ってる人いませんか。
 情報モトム。


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