EBCDIC


仕事をしておりましたら,かような社内メールが届きました。

お恥ずかしい照会ですが、「EBCDIC」って、なんて発音すればよいのでしょうか。 取引先と話す際に変なこと言ってもハズカシイので。

私,一応「初級システムアドミニストレーター」なんちゅう,ようは「パソコンとかその辺の事について,全く知らない人より少しは知っているよ」って資格,といいますかその程度の証明を持っておりまして,また,紛いなりにもその手の部署で仕事してますもので,機械関係の言葉をそれなりに知っております。
なので,当然この「EBCDIC」なる言葉も知っておりました。これは汎用大型コンピュータで使用されるもので,IBMが開発した文字コードです。

メールの彼は,どうやら,どこぞの取引先と大型コンピューター用のテープの受渡を行うようで,それについての問い合わせをしようとしているものと思われます。
そうしたところ,「EBCDIC」なる訳のわかんない言葉と出くわし,まぁ内容なんてどうでもいいんでしょうけど,読み方が判んないと聞くこともできずに困っているものと推察出来ます。

彼には仕事でいつもお世話になっておりまして,しかもこないだ財布を忘れたときに缶ジュースのお金を借りた記憶があるようなないような返したような返してないような感じなので,協力を惜しむつもりはありません。
しかも,メールをよく見ると,非常に重要な情報が盛り込まれています。
彼は,「変なこと言ってもハズカシイ」と書いています。しかも,「お恥ずかしい照会」と「恥ずかしい」を二度も使っています。さらに,そのうちの一回はカタカナにしています。これは,同じ文字を使わないことで恥ずかしさをやわらげようとしているものと推測されます。

これは責任重大です。
ここで私が間違った読み方を教えたら,彼は恥ずかしさのあまり再起不能になってしまうかも知れません。
つまりは,この前途有望な若者の将来は,これから私がする答えに掛かっていると言っても過言ではありません。

私はこの「EBCDIC」のことを,「エビスディック」または「エビクディック」と読むものと思っております。ちなみに,普段私は「エビスディック」と読んでいます。
しかし,間違っていたら大ごとです。彼の精神の安定のためにも正しい答えが必要です。

どれどれ確認。
え〜と,私が所有してます「日経パソコン新語辞典99年度版」ですと「エビシディック」とあります。
おや,私が間違ってたカナ?
いや,きっと辞書が古いから読み方がなまっているんでしょう。って,私が読み方憶えたのは95年くらいですが。

もっと新しい辞書だと私と一緒ですよ,きっと。
え〜,あぁ,うちの上司が持っているじゃないですか。
ナツメ社の「わかりやすいコンピュータ用語辞典」だそうです。借りてみてみると,どれどれ。
おぁ,たくさん読み方が載ってます。さすが新しいだけのことはある。
「エビスディク」「エビシディク」「イビシディク」とあります。
って,一致してないジャン。くそ〜,ナツメ社,多けりゃいいってもんじゃないだろう。大体,三つもあったら判りにくいじゃねぇか。ジャロに訴えるぞ。って,ジャロにどうやって訴えるか知らないんですが。

う〜ん,困った。どうしよう。
もしかしたら正しい読み方というものは存在しないのかも知れません。
とはいえ,間違ったら大ごとです。
彼は,取引先の人に「けっ,エビスディックだってよ。だっせー,カッペじゃねえの」とかって言われたら,明日から出社できないカモ知れませんし。というか,こんなことば使う人って,現存するんでしょうか。なぞです。

こうなったら,出てきた事例から統計的に割り出すことにしましょう。
先頭が「エビ」なのは間違いないようです。おいしそうですから決定します。
最後が「ク」なのも異論はないところでしょう。

問題なのは3文字目ですが,統計的に判断すれば大丈夫。

上記の結果から,「シ」ということでいいでしょう。

最後ですが「ディ」か「ディッ」です。
同率3票というのがまずい。いきなり統計的に割り出そう計画が破綻しました。
どちらでもいいといえばいいんですが,間違っていたら,彼との会話できるのは今日が最後になってしまうかも知れません。

とにかく,ここまでやったからには,なんとか決定しましょう。
とりあえず他の文字は出そろっていますから,全体の印象が大事です。
「エビシディク」
「エビシディック」
う〜ん,どちらも趣が有ります。

ですが,諦める訳にはいきません。諦めたら最後,彼は(中略)。
きっと,いろいろな角度から検証すれば活路は見出せるはずです。
おっ,よく見ると「エビシディク」の方は後ろだけ見ると「ディク」です。
これはまるで「木偶」のようで語感が悪い。
対して「エビシディック」のほうは,「ディック」とあり,まるで男性外国人の名称のような感じです。
きっとこの言葉を作った人は,アメリカはシリコンバレー在住のジム・ディックさんとかで,「私の名前を全世界に広めちゃる」とか野望を抱いていたんでしょう。ジムってのは,アメリカ人だからなんとなくですが。
その大望に感動しました。

というわけで「エビシディック」に決定することにします。 は〜,よかった。

・・・

返答メールを書いてしばらくしましたら,彼から再度メールが届きました。

取引先とアプローチしました。
「EBSDIC」については、ネットで探したら「エビシディック」になっていたんで、意を決して「エビシディック」って言ったら分かってくれました。向こうも「エビシディック」って言っていたし。
もしかしたら、むこうも読み方分からなくてこっちの発音聞いて「エビシディック」っていったのかも。

...もしかしたら,信用されてない?
いや,結果オーライです。これで,彼の不安は解消され,前途洋々たる未来が拓けたわけです。心から拍手をしましょう。
それに,この情報過多の時代,繁雑な情報の中から正しい答えを導き出した自分の分析能力も証明されたのですから,良しとしましょう。
EBCDICをEBSDICと書き間違っているのも,問題が解決したうれしさから勢いで間違っちゃったんでしょう。一応,間違いは指摘しとくけど。

それにしても,WEB検索とは思いつかなかったな。
どれどれ,参考に見とこうかな。
infoseekで検索してと,EBCDIC,EBCDICはと。あぁ,あったあった。多分これだろう。
http://www.infonet.co.jp/ueyama/ip/glossary/ebcdic.html
...「イビシディック」


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