2005年04月分


2005/04/30残照の渡し〜甲次郎浪華始末/築山桂/双葉文庫
2005/04/29風の生涯/辻井喬/新潮文庫
2005/04/28今昔物語集の世界/小峰和明/岩波ジュニア新書
2005/04/23泳いで帰れ/奥田英朗/光文社
2005/04/22夏の椿/北重人/文藝春秋
2005/04/20ダ・ヴィンチ・コード/ダン・ブラウン/角川書店
2005/04/19アンベードカルの生涯/ダナンジャイ・キール/光文社新書
2005/04/13ジャスミン/辻原登/文藝春秋
2005/04/12明治神宮の出現/山口輝臣/吉川弘文館
2005/04/11芭蕉隠密伝〜執心浅からず/浅黄斑/角川春樹事務所
2005/04/10キングの時代/佐藤卓己/岩波書店
2005/04/09喜劇の殿様〜益田太郎冠者伝/高野正雄/角川書店
2005/04/08異国トーキョー漂流記/高野秀行/集英社文庫
2005/04/07野球の国/奥田英朗/光文社文庫
2005/04/06春風そよぐ〜父子十手捕物日記/鈴木英治/徳間文庫
2005/04/05青春あどれさん/松井今朝子/PHP文庫
2005/04/04黒い陽炎〜県闇融資究明の記録/高知新聞編集局取材班/高知新聞社
2005/04/03銀輪の覇者/斎藤純/早川書房
2005/04/03果てしなき渇き/深町秋生/宝島社
2005/04/02うたう警官/佐々木譲/角川春樹事務所

残照の渡し〜甲次郎浪華始末/築山桂/双葉文庫

残照の渡し
残照の渡し
ISBN:4575661996
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.30
築山桂
双葉社 (2005.3)
通常24時間以内に発送します。
先に読んだ”蔵屋敷の遣い”に続く甲次郎浪華始末シリーズ第2弾。前作あるいは築山桂さんの作品全体に通していえるのは大坂を舞台にした時代劇であると言うこと。本作も単に舞台が大坂であると言うだけでなく大坂の町人たちが大阪城代や町方など武士たちをどう見ていたのかがキーワードになっている。主人公の甲次郎はその武士と町人の中間的な存在。(うまく説明できる言葉が見つかりませんが気になる方はまず前作の蔵屋敷の遣いを読んでみてください)友人がある事件に巻き込まれたことを知った主人公がその事件の謎を時仇を討とうとする話なんだけど前作以上にそこに恋愛の要素が強く入っている。と言ってもそれは決して邪魔なものではないところがいい。正直に言うと決して後味のいい作品ではないんだけれどでもやっぱり読みたくなる。事件のほうは解決したが甲次郎自身の謎や周りの人とのつながりは未だ結論が出ていないのでおそらく第3弾、第4弾と続くのだろう。早く続きが読みたい。

風の生涯/辻井喬/新潮文庫

風の生涯 上巻
風の生涯 上巻
ISBN:4101025274
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.29
辻井喬著
新潮社 (2003.12)
通常2〜3日以内に発送します。
 戦後財界四天王と呼ばれ、フジサンケイグループの創始者でもあった水野成夫氏をモデルにした小説を辻井喬氏が描く。おお、昨年話題になったフジサンケイグループと西武のそろい踏みだと思い手を出してみた。勿論昨年話題を呼んだのは堤義明氏率いる西武鉄道の方で辻井喬氏(=堤清二氏)が率いる西武流通グループではないのですが。本作品を読むまで知らなかったのですが水野成夫氏(作中では矢野重也)はフランス文学に熱中し翻訳して学費を稼いでいたり戦前共産党の幹部で転向声明を出すなど、辻井喬氏といろんな面で共通点があったのですね。ちなみに誠也の名前で登場する矢野重也の長男(但し庶子)のモデルは水野誠一氏で元西武百貨店社長だったりする。 作中に出てくる人物全員が仮名になっているかというとそうではなく実名で吉田茂や池田勇人、財界四天王と呼ばれた残り三人小林中、永野重雄、桜田武などは実名で登場する。実名仮名の差について下巻巻末に収録された松本健一氏との対談で辻井喬氏は
想像力をふくらませて書きたい人は仮名にして、その必要がない脇役は実名にした
と述べている。と言ってもこの時代の人物に詳しいわけではないのでどの人が実名でどの人が仮名なのか区別がつかないまま読んでいました。(と言ってもさすがに共産党幹部八坂良三、徳山助一ぐらいは誰を指すのか分かりましたが)
 矢野重也は隠し事が出来ずまた敵味方関係無しに接する人物と描かれているので余り切ったはったや裏切り裏切られなんてこともあまり描かれていない。それでもいろんなドラマがあって読んでいて面白いのですが、クライマックスとなる陣内信(勿論モデルは鹿内信隆氏)との確執、乗っ取りの部分もやけにあっさりと描かれているような気がしてならない。いや、それでも充分に面白かったんですけどね。本作は元々日経新聞に掲載されて連載小説。当然同紙購読者には当時の事情を直接間接に知る人も多かったろう。どんな気分で毎朝新聞を読んでいたんだろうか。

今昔物語集の世界/小峰和明/岩波ジュニア新書

今昔物語集の世界
今昔物語集の世界
ISBN:4005004075
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.28
小峰和明
岩波書店 (2002.8)
通常2〜3日以内に発送します。
 山崎バニラさんお勧め本シリーズ第二段(シリーズ化するのか?) 中高生を対象にした岩波ジュニア新書の一冊ということもあって著者小峯氏が読者に語りかけるような文体で書いてくださっているので大変読みやすく判りやすい本です。
 しかもいちいち細かい単語の解釈や学術的な説明よりもタイトルどおり、まず今昔物語集の”世界”の雰囲気を伝えてくれる。
 キーワードにあげられた言葉は「門」「橋」「坂」「樹」の四つ。こちら側と向こう側の間におかれるもの。単純に場所がこちらかあちらかだけではなく、人と人以外のものの境であったり、現世と死後の世界の境であったりする。二つの世界は対立するのではない。むしろこの四つの場所は二つの世界のどちらでもなくそれぞれが混在した世界を象徴することになる。
 象徴と言えば、取り上げられた門にしても橋にしても、今昔物語集が書かれた頃は既に存在していないことが多いというのも面白い。実在しないからこそ向こう側の世界をより身近にし話を成立させる重要な要素になりえたのだそう。
 また話の途中で物切れになっていたりタイトルしか書かれていない話も多く存在する。そのような不完全な部分も今昔物語集の魅力であると著者は言う。あくまでも入門書でありこれ一冊で今昔物語集を判った気になるわけには行かないが、今昔物語集をもっと知りたい、もっと触れたいと思わせる、まさに入門書として最適な本。

泳いで帰れ/奥田英朗/光文社

泳いで帰れ
泳いで帰れ
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.23
奥田 英朗
光文社 (2004.11)
通常24時間以内に発送します。
 以前読んだ"野球の国"→の続編にあたる作品。
前作では日本各地のややマイナーな地方球場を巡ったのに対して今作では野球を中心にしたアテネオリンピック観戦記である。で、どっちが面白かったかというとまことに申し訳ないが前作の方。本作では日本代表チームの戦績と比例するように著者のいらいらが言葉の端々から伝わってくる。ご承知の通りアテネオリンピックの野球日本代表は金メダルを逃し銅メダルに終わった。著者の気持ちはすごくよく分かるしいらいらや怒りに共感する部分も多々あるのだが、前作の野球観戦を出しに地方球場に出向いたのんびりとした紀行エッセイを期待していたのでこのいらいらは読んでいてつらかった。共感できるだけにそのつらさが余計増してしまう。さぁ、そろそろエッセイではなく本業の小説にも手を出してみないとなぁ。

夏の椿/北重人/文藝春秋

夏の椿
夏の椿
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.22
北 重人
文芸春秋 (2004.12)
通常24時間以内に発送します。
 第11回松本清張賞最終候補作品。夏の椿と言うタイトルも同賞選考委員伊集院静氏の命名だそう。→なかなかの傑作で本作を落としてまで受賞した作品の出来が気になってくるぐらい。ジャンルは時代劇ミステリー。と言っても謎自体は最後の最後まで明かされないわけではなく事件の全容は中ほどでほぼ明らかになる。最後の最後まで種明かしされない部分ももちろんありますが。だからと言って決して尻すぼみになるわけではなく最後までじっくりと読ませてくれる。田沼時代から松平定信の時代へと移り行く時代を舞台にその過渡期の政治的な動きを背景ににじませながら本筋はそれとは無関係な市井の人たちの姿を描く。出身地酒田のコミュニティサイト”今日の庄内”の記事→によると次回作は本作の続編になるよう。主人公他登場人物のキャラクターもいいので続編に期待したいのだが、一方でせっかくきちんと完結しているのにむりに続編を書かなくてもいいのではと思わせる完成度。時代劇好きの方にはぜひ手にとってもらいたい。

ダ・ヴィンチ・コード/ダン・ブラウン/角川書店

ダ・ヴィンチ・コード
越前 敏弥 / Brown Dan
角川書店 (2004.5)
通常2〜3日以内に発送します。
前作”悪魔と天使”を読んだ際、その感想を以下のように記した。→
 絶対的な知識を持つ天才学者が事件の現場に残された痕跡をその知識と天啓とでも呼ぶべきひらめきで解決し、かつ超人的な肉体を駆使して数々の難関を乗り越えていく。こう書くとどこにでもありそうな冒険活劇。だがまさにその通り。(後略)
 本作はあまり”超人的な肉体を駆使する”シーンは見当たらないので、冒険活劇と呼べるかどうか微妙だが”知識と天啓とでも呼ぶべきひらめきで解決”するのは同じ。映画だと”超人的な肉体を駆使する”シーンがたくさん出てきそうな気もしますが。それが正しいかどうかは別にして教会やダ・ヴィンチに残されたさまざまな図像を解釈しながら謎を突き詰めていく流れは読んでいて真に明快。一歩間違えば”トンでも本”扱いされそうな解釈もあるのかもしれないがミステリー仕立てにした事でそれらの解釈はみなこの本の面白さを増す要素になってくれている。ミステリーとしては最後があっけないというかあっさりしているがエンターテインメントとしてはあまり深く考えず(考えようにもキリスト教に関する知識も図像解釈学も知識がないので、この図はこういう隠された意味があるんですよといわれると、ああそうなんですねと返すしかない)一気に読ませるだけの力を持っている。前作と同じ感想になってしまうが作品中で披露される薀蓄は薀蓄として受け入れながら娯楽作品として一気に読み通してしまうのが僕が思う正しい読み方だと思う。

アンベードカルの生涯/ダナンジャイ・キール/光文社新書

アンベードカルの生涯
山際素男 / Keer Dhananjay
光文社 (2005.2)
通常24時間以内に発送します。
 20世紀、インドで民衆のために戦い独立を勝ち取った英雄と言えばいったい誰を思い出すだろう。多くの人がガンジーと答え人によってはさらにネール首相を付け加えるかも知れないが本書の主人公アンベードガルの名を挙げる人はほとんどいないだろう。僕も実は本書で初めてその名を知った。彼は厳しい身分制度であるカースト制度下で最下層カーストの更に下家畜以下で人間扱いされなかった不可触民の子として生まれながら学問に励み、第二次大戦後独立を果たしたインドで初代法務大臣にまで上り詰めた。また、カースト制度をベースにした国民宗教ヒンズー教を捨て仏教に改宗している。彼とともに不可触民達30万人が改宗して始まったインド新仏教は現在では一億人を越える信者がいるという。勿論彼の波瀾万丈の生涯も面白い。また、不可触民がどのような扱いを受けていたのか、更に不可触民の解放と植民地からの独立を両立することの難しさ、インド・パキスタンの宗教対立の元など今に続く様々な問題もよく分かる。もっと面白いのがガンジーとの対立関係。清く正しく万人から広く支持されたと思っていたガンジーも政敵から見ると不可触民のことなど何も考えず自分の立場を保身しその立場が危うくなると必殺技”衰弱し寸前までの断食”を繰り出す扱いにくいことこの上ない厄介者になっている。他民族他宗教国家を一枚岩にまとめることの難しさも含めてインドの父ガンジーの日本人には知り得ない一面も分かる。訳者山際素男氏には不可触民やインド史に関する著書が本書以外にもあるようなので機会を見てそちらも手に取ってみたい。

ジャスミン/辻原登/文藝春秋

ジャスミン
ジャスミン
posted with 簡単リンクくん at 2005. 4.13
辻原登
文芸春秋 (2004.1)
通常2〜3日以内に発送します。
 時代は1989年第二次天安門事件直後から1995年の阪神淡路大震災まで。国境を越えた愛と時代を超えた親子の再会が二つの軸となり、そこに日本の架橋が果たした歴史的役割やスパイ劇まで絡み合ってくると言うと大時代的なロマン小説のよう。実際にはそんなに愛憎劇ではなくもっとさらっとしているんだけどそれでいて読み応えのあった作品。僕は単行本を一気に読んだがもともとは文芸誌上に掲載された連載小説。僕は先に”さらっとしている”と書いたがこの作品を毎月毎月少しずつ読み進めた人はきっと違った印象を持ったろう。いわゆる”はらはらどきどき”とは違うがやはり続きが気になって仕方なかったんじゃないかな。雑誌掲載で完結したのを見届けた上で単行本が出たら改めて一気に読み直した人が多いような気がする。一気に読んでしまったのはちょっともったいなかったかも。とは言え、続きが読めるのにとてもじゃないが中断などできない。辻原氏の作品はこれがはじめて。気にはなっていたんだけど噺家さんを取り上げた” 遊動亭円木 ”のほうも未だ手付かず。次はこの作品に手を出してみよう。

明治神宮の出現/山口輝臣/吉川弘文館

明治神宮の出現(歴史文化ライブラリー 185)
山口輝臣著

出版社 吉川弘文館
発売日 2005.02
価格  ¥ 1,785(¥ 1,700)
ISBN  4642055851

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 明治神宮と言えば例年初詣参拝客日本一を誇る日本有数の神社。本書はこの明治神宮についてまず序章で3つの質問を上げ、その答えを導くために筆を進めていく。3つの質問とは
1.なぜ明治神宮は作られたのか。
2.なぜ明治神宮は今あるあの場所に立てられたのか。
3.なぜ明治神宮には外苑と呼ばれる空間があるのか。
 まず、1について天皇がなくなれば必ず神社を作るわけではない。必ず作られるのは天皇陵すなわち天皇のお墓。僕も勘違いしていたのだがあそこにあるのはあくまでも神社であり明治天皇陵は京都にある。生前明治天皇自身がここに葬ってほしいとの意思表示があったそうでこちらは死後一月足らずで決定に至る。しかし明治神宮のほうははさまざまな議論の末その概略が決定するまでに約3年。内苑が完成するまでに約9年の年月を要している。さらに外苑にはさまざまな施設が併設されているが一番時間がかかった絵画館で壁画完成式典が催されたのは昭和11年。明治天皇崩御から四半世紀以上の年月が流れていた。なぜそんなに時間がかかったのか、その間どのような議論がなされたのかそれを時系列で追いかけていくことで最初にあげた3つの質問に対する答えが導き出されていく。その答えはここには書きません。もし興味をもたれた方がいたらぜひこの本を手にとって見てください。

芭蕉隠密伝〜執心浅からず/浅黄斑/角川春樹事務所

芭蕉隠密伝(時代小説文庫)
浅黄 斑

出版社 角川春樹事務所
発売日 2005.01.15
価格  ¥ 714(¥ 680)
ISBN  4758431507

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 僕は始めて読んだが、浅黄斑氏は元々ミステリーを多く手がけている方だそうで本作もミステリー色が混じった時代劇小説になっている。タイトルにそのまま現れているが昔からよく言われている芭蕉・隠密説にのっとった小説。といっても舞台は大坂。若かりし頃の芭蕉こと松尾宗房が大坂町奉行の配下として施設隠密のような役目を果たしある経済事件解決のため活躍する。活躍すると言っても宗房が主体的に動くと言うより上役の指示に従ってただただ活動するだけ。最後本格的に俳諧の道に進むことを決心し江戸に旅立つところで本作は幕を閉じるがシリーズの続編が書かれる様なので今後の活躍に期待しましょう。

キングの時代/佐藤卓己/岩波書店

『キング』の時代
佐藤卓己著

出版社 岩波書店
発売日 2002.09
価格  ¥ 3,990(¥ 3,800)
ISBN  4000225170

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 以前”言論統制”参考urlを読ませてもらった佐藤卓己氏の作品。戦前日本初の発行部数百万部を達成した雑誌”キング”をテーマに”国民メディア”成立の過程を時代を追って検証する。
 ”キング”という雑誌やその内容だけでなく宣伝方法やこれを出版した”大日本雄弁会講談社”という出版社の性格。さらには社長で”立志伝中”の人である野間清治にまでその検証対象は広がっていく。また当時のラジオ、トーキーと比較することで”キング”の果たした役割が今の我々が考える”雑誌”以上の影響力を持っていたこと”ラジオ的・トーキー的雑誌”であったことも明らかにする。
 本来この本は”キング”のようにはらはらどきどきしながら読む本とは違うので以下に記す僕の感想は不適切かも知れないが特に前半の行け行けどんどん拡大路線時代の話は大変面白く読めた。いわゆる学術書にも関わらず450頁を越える大作を一気に読ませるだけの内容と力を持った作品。インターネットの普及と多チャンネル化で戦後日本を牽引した”国民的メディア”であるテレビの役割が変わっていきそうな今、かつて”国民的メディア”であった雑誌”キング”の栄枯盛衰と果たした役割を見直すのは皮肉ではあるが今読んでよかったなぁと思える本。

喜劇の殿様〜益田太郎冠者伝/高野正雄/角川書店

喜劇の殿様(角川叢書 22)
高野正雄著

出版社 角川書店
発売日 2002.06
価格  ¥ 2,940(¥ 2,800)
ISBN  4047021229

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 以前、小三治師匠の”かんしゃく”を聞いた際に(小三治師匠が高座で触れていたのか後でネットで知ったのかは忘れたが)この噺の作者である益田太郎冠者の名前をはじめて知った。
 益田太郎冠者(本名益田太郎)はタイトルに”殿様”とある通り文字通りのお大尽。彼の父男爵益田孝は三井物産創始者にして初代社長。また鈍翁という号を持ち茶道具の一代コレクターとしても知られた方。参考url
太郎自身も後に台湾製糖社長などを歴任しており父をついで男爵位も得ている。一方で太郎冠者というペンネームで(実は他にもいくつかのペンネームを持っているのだが)自身のロンドン留学などの体験を下にした作品などを書き喜劇作家として活躍する。また、帝国劇場の創立メンバーにも名を連ね文芸担当重役担当取締役にも就任し、特に女優の育成にも力を入れた。お大尽に対するやっかみや喜劇・笑劇に対する低評価もあって今では忘れられた人になっているがその活動は決して無視できないものであるし、内容紹介を読むと喜劇そのものもなかなか面白そうなものが多い。落語作家としても活動は小唄の作詞とともに太郎冠者の余芸として紹介されている。それによると先の”かんしゃく”の他、”洋行帰り””女天下””柱時計””ハイカラ自動車””りんきの見本””堪忍袋”それに今でも高座によくかかる”宗論”の七編が太郎冠者作の落語であるとはっきりしているらしい。また、”動物園”も氏の作品であるといわれているそう。”動物園”はてっきり上方発祥の新作と思っていたのでちょっと意外だった。また”かんしゃく”に出てくるだんな様は太郎冠者本人をモデルにした作品だそう。残念ながら僕は聞く機会に恵まれなかったが六代目春風亭柳橋師匠は太郎冠者とお付き合いがあったそうで本書でも証言を残しているし”洋行帰り”などはよく高座でもかけていたそう。
 尚本書の作者高野正雄氏は元毎日新聞文芸担当記者で、担当していた獅子文六氏から太郎冠者をモデルにした連載小説を書きたいと資料集めを依頼されたそう。残念ながら獅子文六氏がなくなったためその作品は幻となりその際に集めた資料を基に本書が執筆されたわけだがこの方をモデルにした小説がもし書かれていればなかなか面白い作品になっていたように思う。真に残念。

異国トーキョー漂流記/高野秀行/集英社文庫

異国トーキョー漂流記(集英社文庫)
高野秀行

出版社 集英社
発売日 2005.02.18
価格  ¥ 540(¥ 514)
ISBN  4087477924

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 ここのところ自分の中でブームが来ている高野秀行氏の最新刊。世界各地を探検して回っている高野氏だが本作の舞台は”トーキョー”。
本文に書かれ巻末に収録された蔵前仁一氏の解説にも引用された文章を孫引きすると。
〜そのアメリカ娘と一緒にいると、見慣れた東京の町が外国のように見えるのだ。〜これまで毎日のように目にしていたもの、だけど何とも思わなかったものが、ことごとく違和感と新鮮みを伴って、強烈に迫ってくるのだ。〜そのとき、私の目に映ったのは東京ではなく異国の「トーキョー」だった。
 ただまぁ高野氏が出会う外国人だから何というか一言で言うと普通ではない。しかし、おもしろ外人エピソード満載と言う単純なものでもない。恋愛問題、政治亡命者、障害者など笑ってすませられないテーマを含んでいるエピソードも多い。と言ってそう難しい顔をして読むものでもないと思う。どのエピソードどのページを切り取っても面白くて感心してしまう(場合によってはあきれてしまうことも)こと間違いなし。

野球の国/奥田英朗/光文社文庫

野球の国(光文社文庫)
奥田 英朗 著

出版社 光文社
発売日 
価格  ¥ 500(¥ 476)
ISBN  4334738419

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 普段からよく読ませてもらっている新・読前読後で紹介されていた本。野球の本と言われれば読まずばなるまい。遅ればせながら手に取ってみた。内容はかねたくさんの日記を見てもらうとして・・・。という訳にはいかないので簡単に。
2002年から2003年に掛けて野球観戦を主目的に各地を回る紀行エッセイ。章立てにあわせて対象となった試合を列挙すると。
・沖縄編
これだけは試合観戦ではなく沖縄キャンプ地巡り。(中日北谷、横浜宜野湾、ヤクルト浦添、中日二軍読谷)
・四国編
ヤクルトスワローズ-中日ドラゴンズ(松山坊ちゃんスタジアム)
・台湾篇
福岡ダイエーホークス-オリックスブルーウェーブ(天母棒球場)
・東北編
湘南シーレックス-読売ジャイアンツ(秋田県角館町角館球場、比内町達子森球場)
・広島編
広島カープ-横浜ベイスターズ(尾道 しまなみ球場、広島市民球場)
・九州編
福岡ドンタクズ-名古屋80デイザーズ(熊本県営藤崎台球場)
沖縄編本文中に宜野湾球場に向かう途中
・・・。慣れない道を地図片手に運転し、前方に球場の屋根が見えてきたときのよろこびは何物にも代えがたい。再び小さくガッツポーズ。これはきっとくせになる。今年は地方球場巡りをしよう。
とあり、これがそのままこの連載(小説宝石に連載された)の元になっている。
最初に”紀行エッセイ”と書いたとおりこれは野球を見に行くことをきっかけにして地方を回る旅行。四国編文中に
どうやら私の旅は「野球と映画とマッサージの旅」ということになっているらしい。
とあるがまさにその通り。そして当然旅先での食事の話やタクシーの運転手や按摩師との会話を読んでいると、ああ、野球が見に行きたい、旅行に行きたいという気になってくる。保険本と行っては失礼だが本来読もうと鞄に入れた本が自分に合わず他に何も読むモノが無くて困るときに頼りになりそうな本。タダこればっかり読んでいると他の本が進まなくなるので気をつけないと。<と言っても相変わらず図書館で借りたのでいずれ返すわけですが。 調べてみると同じく小説宝石に連載された姉妹編”泳いで帰れ”という直木賞授賞式をぶっちして出向いたアテネオリンピック観戦記が出ているらしい。こちらも是非読んでみよう。で、肝心の小説なのですが実は奥田氏の作品、これが初めてでまだ読んだことがない。是非読んでみようと思うんですけどこのエッセイの中で執筆に苦労する姿が書かれていて本編を見る前に舞台裏を覗いてしまう様な状態になってしまった。なので少し間をおいてから読むことにしましょう。天気のいい日に散歩しながら読みたい本。(実際に歩きながら本を読むと危ないけど)

春風そよぐ〜父子十手捕物日記/鈴木英治/徳間文庫

春風吹く(徳間文庫)
鈴木 英治

出版社 徳間書店
発売日 2005.01.06
価格  ¥ 620(¥ 590)
ISBN  4198921857

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 1月に第1作を読んだ”父子十手捕物日記”シリーズ第2作。図書館からの順番の関係で第3作”一輪の花”を先に読んだが流れとしては第1弾の最後に余韻を残していたその続編が本作。”一輪の花”はいったん区切りをつけて再スタートという感じだったので先に”一輪の花”を読んでも大丈夫だったのでよかった。
 第1作の最後、事件を解決しほっとしながら歩く親子に突然襲いかかった辻斬り。これが第2作の敵役。彼が付け狙うのは既に隠居している父丈右衛門の方。
 鈴木英冶氏の作品は時代劇と言うより時代劇を舞台にしたミステリー色の強い作品が多いのだが本作はその度合いが低い。勿論、なぜ丈右衛門が付け狙われるのかと言う謎はあるがそれを解くのが本作のメインではない。むしろこの敵役の強さを際だたせることで親子との対決シーンを盛り上げる作品。後、このシリーズでは町を巡回する最中に入って食事をするシーンが多くそれが皆うまそう。さすがに池波正太郎の食事シーンとまではいかないがその線を狙っているのは明らか。これが鈴木英冶氏の作品の幅を広げることになるのか、次回作以降を楽しみにしたい。

青春あどれさん/松井今朝子/PHP文庫

幕末あどれさん(PHP文庫)
[[松井今朝子]]著

出版社 PHP研究所
発売日 2004.02
価格  ¥ 980(¥ 933)
ISBN  4569661092

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 あどれさんとはフランス語の青年を表す言葉。(adolescent)。時代はペリー来航から九年を経た文久2年。主人公旗本の二男、久保田宗八郎は幕府の講武所で剣の修行に励むが、あるきっかけから家を出、歌舞伎の立作家河竹新七(後の河竹黙阿弥)に入門する。もう一人の主人公は片瀬源之助は同じく旗本の次男だが久保田に比べると貧乏旗本と言われる立場で役につける見通しもない。彼は幕府が作りフランス人が指導する日本初の陸軍に志願する。一言で言えば幕末の医大の流れに翻弄される青年達の物語と言えようが話の方はそう単純ではない。
 武士をやめて歌舞伎作家になろうとする青年と陸軍を志願する青年、一見相反する二人だが根っこは同じ。歌舞伎作家になった久保田も兄の家を出る一時手段として歌舞伎作家を選んだだけで本当に武士をやめる決心が最初からあったわけではない。源之助も愛国心から陸軍を志願したわけでもない。ましてや早晩幕府がつぶれるなんてこれっぽっちも想像していなかったろう。鳥羽伏見で激戦が繰り広げられ将軍が逃げ帰ってきた時でもそう言う状態だった。時代に棹さすわけでもなく迎合するわけでもなくただただ日々を暮らしている二人だがやはり二人とも時代の流れに確かにのっていたのだなぁと、読み終わった後そう感じる。
 またこの二人の動きとは別に当時の歌舞伎界が政情や景気に左右され翻弄されている様もよく分かって興味深い。著者松井今朝子さんのサイトによると久保田を主人公にした続編”銀座開化事件帖”が2月に刊行されたばかり。こちらもさっそく手に取ってみたいと思います。

黒い陽炎〜県闇融資究明の記録/高知新聞編集局取材班/高知新聞社

黒い陽炎
高知新聞編集局取材班〔編〕

出版社 高知新聞社
発売日 2001.11
価格  ¥ 1,365(¥ 1,300)
ISBN  4875033214

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 以前読んだ「追及・北海道警「裏金」疑惑」取材班の一人、北海道新聞報道本部の高田昌幸氏のBlogで紹介されていた記事を読んだのが本書を知るきっかけ。幸い地元図書館に所蔵されていたので手に取ってみた。  以前、自ら”糾弾屋”だったと認めた上で”同和利権亡者”と袂を分かつ思いを書いた山下力氏の「被差別部落のわが半生」を読んだ。本書はその”同和利権亡者”の要望に屈し闇融資を繰り返していた県側の対応を追求した本。  外から乗り込んできた[[橋本大二郎]]知事のあずかり知らぬところで(本当のところどこまで知っていたのかは不明だが)、さらに言えばごく一部の県幹部だけが代々引き継ぎ行い決して表に出せない文字通りの”闇”融資。本書後書きにも触れられているように”同和”は報道する側にとってもデリケートな問題。同じような地方公共団体の特定団体への優遇措置は高知県にとどまらないと思うが県警裏金問題のように追及の動きが余り広がらなかったように見えることもこの問題の根深さを逆に現しているように思われる。それだけにここまで書くにはいろんなご苦労が合ったろうと想像できる。しかしその分県内の反響は大きかったようで僕が手にした本の奥付は初刷りから10日足らずで刷りましされた2刷りになっている。  一番最初に触れた警察の裏金についても、稲葉事件の特異性もあって北海道警のそれが目立つが高知新聞の県警追求報道が全国の県警裏金問題の口火を切ったそう。「追及・北海道警「裏金」疑惑」の感想に”期待したい”と書いた続編「日本警察と裏金 底なしの腐敗」も出るよう。この本は北海道新聞取材班著となっているがこの高知新聞や愛媛新聞、神戸新聞など地方紙のサツ回り記者たち”だそうで今から手にするのが楽しみです。
 尚、この闇融資事件については本年2月に控訴審が結審し7月に判決が下る予定

銀輪の覇者/斎藤純/早川書房

銀輪の覇者(ハヤカワ・ミステリワールド)
斎藤純著

出版社 早川書房
発売日 2004.06
価格  ¥ 2,100(¥ 2,000)
ISBN  4152085622

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 昭和9年に開かれた前代未聞本州縦断自転車ロードレースを舞台にした冒険小説。不勉強で全く知らなかったのだが戦前の日本では自転車ロードレースが国民的スポーツといっていいほど人気があったらしい。主人公の響木がかき集めた望月,小松,越前屋の4人の寄せ集めチーム。4人が4人とも内にに秘めたものを持ちながら響木の指導の甲斐あって急増チームとは思えない進歩を遂げていく。この4選手以外にも主催者や軍部、マスコミ他さまざまな思惑が絡み合いながらストーリーは展開していく。内に秘めた思惑が少しずつ明らかになっていく展開ももちろん面白いのだがそれ以上に読み手をひきつけるのが選手・チーム間の駆け引きとレース展開。オリンピックやツール・ド・フランスをチラッと見る程度にしかロードレースの知識のない僕にでも十分に楽しめた。また、この本のおかげで今後自転車ロードレースを見る目も変わってきそう。時代物で登場人物が多くしかも舞台が全国に広がると悪条件が重なり、費用がかさむと思われるがぜひ映像化したら見てみたい作品。結構面白い作品に仕上がると思うのだがどうなんだろう。このミス第5位ということもあるし検討している人もいると思うんだけどなぁ。

果てしなき渇き/深町秋生/宝島社

果てしなき渇き
深町秋生著

出版社 宝島社
発売日 2005.02
価格  ¥ 1,680(¥ 1,600)
ISBN  4796644601

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先日読んだサウスポー・キラーと第3回「このミステリーがすごい!」大賞大賞を分け合った作品ということでこちらも手を出してみた。
最初から最後まで手加減を知らない描写が続く。正直言うとそういう類の文章があまり好きではないので(痛い話は大の苦手)しばしば手を止めながらしかし本を閉じることはできず一気に読みきってしまった。最後の意外な結末については、ここまで騒ぎが大きくなりここまで徹底した組織なら最後まで残されていることはないんじゃないのかなぁという気がしないでもなかった。ま、それでここまで一気に読まされた興奮がへたってしまうことはないんだけれど。ちなみに作者の深町秋生さんってはてなユーザーなんですね。早速アンテナに登録させていただきました。

うたう警官/佐々木譲/角川春樹事務所

うたう警官
佐々木譲〔著〕

出版社 角川春樹事務所
発売日 2004.12
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  4758410453

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 ご自身も北海道在住の作家、佐々木譲氏が描く警官小説の舞台は北海道警察。当然世間を騒がせたあの不祥事がこの作品の根底にある。警察の腐敗体質そのものよりも腐敗した上部と何とかしたいと思っている下位の人たちとの対立をある婦人警官殺人事件に絡めて描く。ちょっとかっこよすぎて話の進み方もスムーズすぎるような気もするがその文一気に読ませられた。事件の全容自体は本編八割ぐらい読み進めたところで明らかになるが緊張感は実はそこから増してくる。最後の一行まで読み込ませてくれた。
 佐々木譲氏ご本人のブログによると本作は警察小説3部作の第1部に当たるのだそう。第2部、第3部も楽しみ。

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