2005年01月分


2005/01/30天使と悪魔/ダン・ブラウン/角川書店
2005/01/29父子十手捕物日記/鈴木英治/徳間文庫
2005/01/25いとしこいし漫才の世界/喜味こいし・戸田学/岩波書店
2005/01/24ギャンブル依存症とたたかう/帚木蓬生/新潮社
2005/01/23烈火の剣/鈴木英治/ハルキ文庫
2005/01/22興行界の顔役/猪野 健治/ちくま文庫
2005/01/21「妖しの民」と生まれきて/笠原和夫/ちくま文庫
2005/01/17ふるさとは貧民窟(スラム)なりき/小板橋二郎/ちくま文庫
2005/01/15崩れる日 なに思う〜病葉流れて(3)/白川道/小学館
2005/01/13ザビエルとその弟子/加賀乙彦/講談社
2005/01/12貸本屋のぼくはマンガに夢中だった/長谷川裕/草思社
2005/01/05アフター・アメリカ/渡辺靖/慶応義塾大学出版会
2005/01/02渡邊恒雄 メディアと権力/魚住昭/講談社文庫

天使と悪魔/ダン・ブラウン/角川書店

天使と悪魔 上
ダン・ブラウン著・越前敏弥訳

出版社 角川書店
発売日 2003.10
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  4047914568

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天使と悪魔 下
ダン・ブラウン著・越前敏弥訳

出版社 角川書店
発売日 2003.10
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  4047914576

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 話題のベストセラー”ダヴィンチ・コード”。”ダヴィンチ・コードのほうは残念ながら未読だが本作は同作品の前編に当たる作品で主人公は同じハーヴァード大学の宗教図像解釈学の教授ロバート・ラングドン。
 絶対的な知識を持つ天才学者が事件の現場に残された痕跡をその知識と天啓とでも呼ぶべきひらめきで解決し、かつ超人的な肉体を駆使して数々の難関を乗り越えていく。こう書くとどこにでもありそうな冒険活劇。だがまさにその通り。これは本作が単純でつまらないと言っているわけではない。主人公が若くて勝気で美人の女性パートナーを得て(これもありがちだが)乗り越えていく難関はさすがベストセラーになるだけあって息をも着かせぬ面白さがある。キリスト教や図像解釈学あるいは作品の舞台となるヴァチカンに詳しい人が読めばまた印象が変わるのかもしれない。宗教と科学について深く考えながら読む人もいるかもしれないし、ヴァチカンが隠し続けていると言う秘められた文書や秘密結社の記述に興味を惹かれる人も多いかもしれない。しかしそのあたりの薀蓄をある程度受け入れながら単純な冒険活劇、エンターテインメント小説と思って気軽に読んだほうがずっと楽しめるかもしれない。自分の知識のなさを棚に上げるようですが僕はそういう風に読んで十分に楽しませてもらいました。

父子十手捕物日記/鈴木英治/徳間文庫

父子十手捕物日記(徳間文庫)
鈴木 英治

出版社 徳間書店
発売日 2004.12.04
価格  ¥ 620(¥ 590)
ISBN  4198921695

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 ネット上で氏の作品を取り上げるサイトをなかなか見あたらないので俺しか読んでいないのかと思っていたらいつの間にか”超人気作家”(巻末徳間文庫最新刊広告紹介文より)。奥付を見ても初刷一月足らずで二刷りになっている。多作しかも何人もの主人公を使い分ける多シリーズで大丈夫かと心配したら、又新シリーズの登場。主人公の若手同心文之介、元同心で既に隠居した父丈右衛門、幼なじみの中間勇七と魅力的な登場人物がそろっている。残念ながら本作では文之介の剣の腕前は存分に披露されているとは言い難いが本作最後に登場した謎の浪人との対決が見られる次回作”春風そよぐ 父子十手捕物日記”で見られそうだ。どの作品も一定のレベルを保っていると思うが初めて読んだ時の新鮮さに欠けるのも正直なところ。デビュー作”義元謀殺”、第2作”血の城”以来とんとご無沙汰の戦国モノが久しぶりに読みたいのだがこう売れっ子になってしまうとそれは贅沢な望みなのだろうか

いとしこいし漫才の世界/喜味こいし・戸田学/岩波書店

いとしこいし漫才の世界
喜味こいし編・戸田学編

出版社 岩波書店
発売日 2004.09
価格  ¥ 2,730(¥ 2,600)
ISBN  4000221434

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 本書内でも多くの人が述べているがいとしこいしの漫才は上品だった。こいし師ご自身も述べているが、”俺””おまえ”の漫才ではなく”僕””君”の漫才。上品できれいな言葉を使っているから速記を読んでも面白い。勿論、お二人の漫才をテレビやラジオを通じて何度も見たことがあるから速記を読みながら頭の中でお二人のしゃべり口調を再現しながら読んでいる。だがおそらくまったくお二人の漫才に触れたことのない人が読んでもきっと面白いに違いない。どんなに新しい漫才コンビが出てこようともずっと第一線で活躍できたすごさが速記からもにじみ出てくる。この本を読んで改めて驚かされたのがずっと新しい新作を演じ続けていたこと。平成13年初演の”迷い犬探してます”なんてモーニング娘。が出てくる。このネタは残念ながら拝見したことがないが客席に違和感なく受け入れられたであろうことは想像できる。こういった速記が14本も収録されているだけでこの本の値打ちは決まったようなモノ。
 あえて残念な点を上げると、お二人に縁の深かった方のインタビューがいくつか収録されているのだがある年齢以上の方ばかり。もっと若手の芸人さんがお二人をどう見ていたのかが、インタビューの対象をもう少し広げてもらえるとありがたかった。

ギャンブル依存症とたたかう/帚木蓬生/新潮社

ギャンブル依存とたたかう(新潮選書)
帚木蓬生著

出版社 新潮社
発売日 2004.11
価格  ¥ 1,050(¥ 1,000)
ISBN  410603543X

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 正直に言うと”ギャンブル依存症”は自分には無縁だと思っていた。只自分の好きな作家帚木蓬生氏の作品というだけで手を取ってみた。しかしこの考えが甘いことは本書を開いて一頁目”はじめに”の第一行目からで思い知らされる。
 ”自分はギャンブルなんか嫌いだ、まったく興味がない一切やるつもりがない、と言う人がいます。しかし忘年会や新年会の集まりで、ビンゴゲームをやると、乗ってこない人はまずいません。(中略)ビンゴゲームもれっきとしたギャンブルなのです。(中略)誰もがギャンブル依存症になる素質を持っているのです。(中略)なぜなら、人間の脳の仕組みがそのようになっているとしか思えないからです。(後略)
 ギャンブル依存症が病気であると認められたのはまだ20年ほど前のことで世間に広く認知されたとは言い難い状況にある。この本は”病い”である”ギャンブル依存症”とはどのようなモノなのか。”病い”であるならば治療しなければならないわけでその為にはどのような方法があるのかを素人にもわかりやすく説いてくれる。公的な統計はまだ無いがアメリカやヨーロッパの統計や日本のアルコール依存症患者数などを勘案し著者は日本には200万人の”ギャンブル依存症”患者がいるという。”ギャンブル依存症”患者は多くの負債を抱えているため、家族友人他患者の周りの人たちに普通の病気の看護、介護以上の負担を強いる。その影響を受ける人数は高齢者とその介護に当たる人の人数と比べても決して少なくない。にもかかわらず国他公共機関の施策は皆無に等しい。さらに日本の特殊な警鐘を鳴らす。あくまでも”遊技”であり”ギャンブル”ではないとされる”パチンコ””パチスロ”、そして気軽にお金が借りられる消費者金融、闇金融。この環境は予備軍をどんどん依存症に引きずり込み、また治療中の患者を元の依存症に引き戻してしまう。このままでは社会の土台が腐っていくと著者は強く警鐘を鳴らす。自分には無関係だと言い切れる人はどこにもいないと誰もが自覚すべき深刻な問題。一人でも多くの人がこの本を手に取りこの問題を考えるきっかけにしてもらいたい。

烈火の剣/鈴木英治/ハルキ文庫

烈火の剣(時代小説文庫)
鈴木 英治

出版社 角川春樹事務所
発売日 2004.12.15
価格  ¥ 735(¥ 700)
ISBN  4758431469

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 勘兵衛のシリーズもいつの間にか第四弾。勤め先も書院番から徒目付へ移籍し、心機一転、新たに組んだやや癖のある同僚や上司にもなれつつあるときに事件が起こる。・・・。これまでの作品同様ミステリー色の強い時代劇。舞台も新たになり魅力的な登場人物も増え、より読ませる作品に仕上がっている。お役目としてかかわる事件と個人的に巻き込まれた事件がいつの間にか微妙に絡み合って・・・、というのがこれまでの氏の作品に多いパターン。今回も二つの事件が起こるがその絡み具合はこれまでの作品と比べると弱いか。しかしその分話の筋がすっきりしていて一気に読ませられた。新しい相棒が追っている事件のほうは未解決のまま終わったのでこのシリーズもまだまだ読ませてもらえそうだ。と思って調べてみると徳間文庫でもまた新しいシリーズが刊行されている。こちらはまだ手付かずだが今年も鈴木英治氏にはたくさん楽しませてもらえそうだ。


興行界の顔役/猪野 健治/ちくま文庫

興行界の顔役(ちくま文庫)
猪野 健治

出版社 筑摩書房
発売日 2004.09.08
価格  ¥ 998(¥ 950)
ISBN  4480039791

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 日本の興行界の草分けでありまた戦後の興行界の重鎮でも会った永田貞雄氏の一代記。(お恥ずかしい話、読む前ちょっと勘違いしたのだが大映の永田”ラッパ”雅一氏とは全く別人で血縁関係もない。もちろん興行の世界でのつながりはあったろうが)
 歌謡界を中心にした山口組三代目田岡一雄氏とのつながり、さらに力道山が興した日本のプロレスを裏で支えたのも彼、永田貞雄氏。以前、旧ソ連とのつながりを駆使した伝説の呼び屋神彰氏の伝記→を読んだがもちろんその分野でも負けてはいない。その詳細はぜひこの本を読んでもらいたいので書かない。やはり面白いのは、浪曲師を志して故郷九州を離れてから、変声期に扁桃腺を患い浪曲師の道を立たれ興行師の道を歩み成功していく立志伝の部分。しばしばその発言が引用されている吉本興業元会長林正之助氏が一目置いていたのもよくわかる。終章でビートルズ武道館公演をひとつのきっかけに日本の興行界は変わってしまったと記されている。さらに時代を下った現代ではいわゆる名プロデューサーと呼ばれる人は何人もいるだろうかのるかそるかの大博打をし、また興行界だけでなく政界、財界さらに裏の世界にまで顔の聞くようなすごい興行師というのはもう出てこないのだろう。ここの所現代史を裏から見るような本を続けざまに読んだがこれが一番面白かったかな。

「妖しの民」と生まれきて/笠原和夫/ちくま文庫

「妖しの民」と生まれきて(ちくま文庫)
笠原和夫著

出版社 筑摩書房
発売日 2004.07
価格  ¥ 819(¥ 780)
ISBN  4480039406

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 著者はシナリオ作家として著名な方。氏の作品としては仁義なき戦いシリーズや浪人街など何作品か実際に拝見し楽しませてもらった覚えもあるのだが今回はそう言った作品のシナリオ作家の方が書いた著作という意識はあまり無く(失礼)むしろタイトルに書かれた「妖しの民」という言葉に惹かれて読んでみた。
 先に読んだ”ふるさとは貧民窟(スラム)なりき”の様なある意味で特別な地域出身ということもなく、またシナリオ作家修業中の話は書かれているが東映に常勤嘱託採用される寸前で筆を止めているので当時の映画界の内幕が書かれていると思うとそれも期待はずれになりそう。では面白くなかったのかというとそれは違う。複雑な家庭環境、大竹海兵団でのエピソード、そして映画界に何とか入り込もうとしながらそれを果たせずにいる間過ごした木挽町のバーテンとして過ごした青春時代。氏のシナリオ作品に詳しい人ならそれぞれのエピソードの影響を受けた映画のシーンを思い起こせるのかも知れない。残念ながら僕にはそう言うシーンを思い出すことは出来なかったが終戦を挟んで戦前戦後を通じてある一人の青年が過ごした日々が克明に浮かんでおり大変興味深く読むことが出来た。

ふるさとは貧民窟(スラム)なりき/小板橋二郎/ちくま文庫

ふるさとは貧民窟(スラム)なりき(ちくま文庫)
[[小板橋二郎]]

出版社 筑摩書房
発売日 2004.08.09
価格  ¥ 777(¥ 740)
ISBN  4480039732

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 あちこちのサイトで昨年読んだ本の上位に上げられていたので手を出してみた。(但し、今回僕も読んだちくま文庫版が2004年8月刊行だが親本である風媒社版は1993年6月刊行)。
 著者は1938年板橋は岩の坂生まれる。著者が大きくなってから友人に「幼い頃悪さをしたら親に”イノサカ”に捨ててくるよ」と脅されたことがあると言われたらしい。この”イノサカ”とはつまり”岩の坂”のこと。また、物の本によっては「この地域にはあまり伝染病がはやらない。何故ならば元々不衛生なので免疫ができているから」などと書いてあるものもあるらしい。また、明治から戦前にかけて書かれたいくつかの貧民窟に関する報告書や書籍がみなまともな実地取材もせず(軽蔑を含んだ)上からの視点で同情的に書かれているとばっさり否定する。筆者の幼い頃から中学を卒業し”ふるさと”を離れるまでの間に自分で見聞きした体験を事細かに書いていく。大空襲と戦後の復興建築の流れの中で跡形もなくなってしまった貧民窟(スラム)を目の前にさらけ出してくれる。今年は戦後60年だそうだがだとするとほんの50年ほど前まで日本にもこんな世界が現実にあったのだと僕の目の前に突き出してくれた。大正から昭和初期にかけてちょっとこぎれいなモダンな社会を取り上げた本を最近よく目にするが一方でこういう社会もあったということ。と言ってもそう堅苦しい本でも教訓くさい本でもないのでちょっとでも興味を持った方はぜひ手をとってもらいたい。
 著者の本業はルポライター。失礼ながらこれが僕の読んだ氏の最初の著書であるがその著書目録を見ると”ノンフィクションライター”より”ルポライター”という肩書きが本当によく似合いそうな一癖も二癖もありそうな書名が並んでいる。これから少しずつ読んでみたい。巻末には自分の師匠はこの方だけと言ってはばからないノンフィクション作家 山根 一眞氏との対談も収録されている。お勧めです。


崩れる日 なに思う〜病葉流れて(3)/白川道/小学館

崩れる日なにおもう
白川道著

出版社 小学館
発売日 2004.09
価格  ¥ 2,100(¥ 2,000)
ISBN  4093791538

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 すっかりご無沙汰して前作読了からえらく間を空けてしまったが、しっかり楽しんで読ませてもらった。大学卒業後、舞台は大阪へ。主人公梨田はある家電メーカー(読めばすぐにわかるがモデルは三洋電機)に就職するが彼に勤め人など務まろうはずもなくすぐにやめてしまう。前半は麻雀、後半は先物取引。どちらも僕には縁のない世界だが(そのため文中に書かれた牌符も先物の仕組みもよくわからないまま読み進めた)手に汗握る迫力はさすが。これが自伝的小説というのだから、どこまでが事実でどこからがフィクションか判断はつかないが思わずぞくぞくっとしてしまう。
 先に書いたとおり舞台も東京から大阪に移り完全に独立した作品としても楽しめるが改めて三部作と執筆順からは逆になるがさらにその後日談でもある”流星たちの宴”を通して一気読みしたくなった。


ザビエルとその弟子/加賀乙彦/講談社

ザビエルとその弟子
加賀乙彦著

出版社 講談社
発売日 2004.07
価格  ¥ 1,680(¥ 1,600)
ISBN  4062124637

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 日本に初めてキリスト教を伝えた宣教師フランシスコ・ザビエル。但しこの小説では日本での布教活動を一旦終えポルトガル人のアジアでの活動拠点マラッカに戻り、鎖国状態にある明での布教活動の目指すが数々の試練が待ち受けていた。
 誰もがその名を知るザビエルの日本での活動ではなく彼の最晩年を描く。書名にもあるように随所にザビエルと弟子との会話(時には弟子同士が師ザビエルについて交わす会話)がはさまれる。いくつか交わされる中でもクライマックスは一番最後ザビエルと日本人ヤジロウとの会話。ザビエルの一途すぎて他を認めることを知らない布教活動。その正しさ真剣さを知りながら一図過ぎるがゆえに日本や明で布教活動がうまくいかないことを知り苦悩する弟子の思いが最後の会話でようやく師に伝わる。長編大作の多い著者の作品の中では短い部類に入る作品。情景描写はもちろん、師と弟子の会話も宗教家にふさわしく淡々と交わされながらそこににじみ出る強い思いが読む側にぐっと伝わってくる。


貸本屋のぼくはマンガに夢中だった/長谷川裕/草思社

貸本屋のぼくはマンガに夢中だった
長谷川裕著

出版社 草思社
発売日 1999.04
価格  ¥ 1,680(¥ 1,600)
ISBN  479420874X

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 隆盛を誇った1950年代後半からやがて時代に取り残されていく1960年代後半までの約10年間の貸し本業界をまさに生家の稼業が貸し本屋であった著者が自らの体験に重ねながら振り返る。
 69年生まれの僕でしかも生家の稼業が著者の商売敵の新刊書店だったこともあり貸本屋に入ったことはないが近くに一軒合った記憶がある。タダ失礼ながら薄暗いお店であまり繁盛していなかったような気もする。
 しかし、貸し本に対する著者の強い思いはよく伝わってくるし、高度経済成長時代に入り”今日よりも明日の方がいい”と皆が思っていた時にそれに反するかのように置いてきぼりを食らう貸し本屋業界(これはお店だけでなく版元や貸し本漫画家を含む業界全体)の何とも言えない雰囲気がよく伝わってくる。また著者が強く主張する貸し本漫画が漫画界に与え今も残る影響についても分かるような気がする。
 ここの作品に対する厳密な分析や調査ではなくあくまでも著者の思いに徹した筆致が却って親しみを感じる。単なる回顧主義レトロ趣味とは一線を画したのモノになっているのは著者の実体験により足場が固まっているからだろう。


アフター・アメリカ/渡辺靖/慶応義塾大学出版会

アフター・アメリカ
渡辺靖著

出版社 慶応義塾大学出版会
発売日 2004.05
価格  ¥ 2,625(¥ 2,500)
ISBN  4766410785

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bk1に記載された内容説明文より引用
アメリカ最古で最上の名門家族である「ボストンのバラモン」。アメリカン・ドリームを体現したアイルランド系移民家族の「ボストン・アイリッシュ」。2つの世界を通してアメリカ市民社会の最深部を浮き彫りにした画期的論考。
 上記に書かれた二つの階層に対するインタビューおよび考察部分は学術書とは思えない平易な文章で書かれ本当に楽しく一気に読めた。
一般には”アメリカ白人階層”と一くくりにされそうな人たちでさえここまで異なる価値観や歴史観、家族観を持つことがよくわかる。
 後半この調査を受けてアメリカの多様性、”多文化”という言葉一つ使うにもその持つ意味やその中心に何をすえるべきか論議が必要なくらいの多様性。とその多様性がもたらす対立。階層ごとのバックボーンの違いは現代に近づくほど階層間・人種間の交流が深まり薄まっていくが一方で反動も生む。
 よく言われるアメリカの”保守”と”リベラル”の対立。その全容がわかったとはとてもいえないがそのベースになるものの一端がわかったような気がする。

渡邊恒雄 メディアと権力/魚住昭/講談社文庫

渡邉恒雄メディアと権力(講談社文庫)
魚住昭〔著〕

出版社 講談社
発売日 2003.08
価格  ¥ 800(¥ 762)
ISBN  4062738112

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 新年早々からこんな胸糞悪いおっさんの話かよ”という気がしないでもないんだけどちょうどこのタイミングで読み終わってしまったので仕方がない。  正直に言うと、僕がナベツネの存在を意識するようにのは巨人軍のオーナーになっていろんな発言をするようになってからなのでそれ以前の政治部記者から讀賣のトップに上り詰める過程をまったく知らなかった。(名前はもしかしたら大相撲横審がらみでその前から聞いたことが合ったかもしれないが自信はない。)なので若い頃の政治記者という枠を飛び越え、政権中枢でも確固たる地位を気づくまでの流れを読んで身震いがしてくる。  同書について触れたとみきち読書日記の冒頭で
読んでいるあいだじゅう、何度も頭の中を訂正しなければならなかった。これは政治家の話ではなくて、ナベツネの話なのだ、と。ナベツネは一応ジャーナリストとして世の中に出た人間である。新聞社の中で出世をし、確かにトップまで登り詰めたわけなのだが、決してオーナーでもなければ、政治家でもないのだ。
とあったがまさしくその通り。  彼がもし政治家となり大臣にでも総理大臣にでもなっていたほうがいくらかましだったようにさえ思える。こう書くと”何をいっているんだ、あんな傲慢で高慢ちきな親父に政治権力を握らせれば何をするか判ったものではない”と反論する人もいるだろう。しかし政治家であれば批評の対象になりえるし世論の声を結集すればその地位をおびえさせることも可能だ。しかしナベツネの場合、政治家ではないが実質的な政治権力を握っており、しかも発行部数一千万部、大マスコミのトップであり本来であればその地位をおびえさせることも可能であるはずの世論の声さえも操作できる地位にある。この本のタイトルにある”メディアと権力”この両方を握りしかもこの力を己の望みどおりの社会にするために世間の批判をものともせず行使し続ける。こんな扱いにくい人物はいない。
 しかもこれだけの力を持ってしまうと周りの人間がナベツネの望むこと望まないことをどんどん先回りし自主規制してしまう。文庫版巻末に収録された魚住氏と玉木正之氏の対談で触れられいたが、中央公論を傘下におさめた際、ナベツネ批判を含んだエッセーを文庫収録時に削除しようとした話などはその典型。ナベツネ本人にしてみればエッセーで批判を受けようとも痛くも痒くもなかったかもしれないが周りにいる人間が保身のために先走ってしまう。  これは何も読売だけの問題ではない。昨今話題のNHKだって、いつもチェックさせてもらっている坂本衛さんのサイト(2004/12/14分)にこんな記述があった。
 ●いま出ている「週刊Spa!」「サンデー毎日」がNHK問題を追っており、坂本もコメント。Spa記者からは「取材後、校了にかけて、話を聞いたNHK関係者から『書かないでほしい』『曖昧にしてほしい』という連絡が相次いだ。『××部はもちろん××局もダメ』『記者もダメで職員にしてくれ』と。組合幹部も『実名はやめて、組合関係者か職員Aにしてほしい』と。いってきたのは、集金スタッフなど弱い立場の人でなく、みんなNHK本体の人。しかも、たいした話じゃないと思われる部分について。それでも、NHKを変えるために、外部からどんどん批判をしてほしいらしい。(後略)
 一方、これだけの権力を握った人間にとって巨人軍は”発行部数一千万部”を維持し、日本テレビの視聴率を取るための広告塔でしかない。そういう彼が”たかが選手”と発言するのもある意味で無理はないことだった。昨年の再編騒動では結局彼の思う通りにならないまま、裏金問題もあってプロ野球界の第一線から退くことになったが彼にとって見れば”たかがプロ野球”に貴重な自分の時間を割かれずにすんでせいせいしているのかもしれない。  本書エピローグに触れられている押し紙に対する販売店の発言でも明らかなように”一千万部”と”発行部数世界一”を維持することは讀賣新聞の至上命題だ。しかし書籍と同様今後永久に再販指定制度が維持されるとも思えない。自由価格になった際、軍団とも呼ばれる”拡張団”を使って讀賣は他紙を圧倒するかもしれない。しかし、それはおそらくチキンレースで新聞専売所と拡張団の後始末はいずれ各新聞社の大きな負担になろうかと思う。ナベツネがいる限り、チキンレースでブレーキをかけるタイミングを最期まで逃してしまうのは讀賣だろう。ナベツネ引退後ブレーキをかけ損ねた讀賣の後始末を託される人のことを思うとご愁傷様というしかない。


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