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『平成三十年』とは何か

 『平成三十年』とは、朝日新聞朝刊にて平成9年6月1日より連載されている小説である。作者は堺屋太一。題名の通り、今から約20年後の日本を舞台に展開される近未来政治・経済小説と言えるだろう。

 この小説の連載に当って、堺屋太一は「もっともありそうな未来」の予測を学術的に行ったらしい。その一部は PRESIDENT のページでも見ることが出来る。それは為替市場の予測であり、貿易収支の予測であり、財政収支の予測であり・・・それが的中するのかどうかは、20年後になってみなければわからない。

 いずれにせよ、朝日新聞という全国紙上において、堺屋太一という権威ある筆者が、未来予測小説という形で現在の日本に警鐘を鳴らすというこの企画は、まさに鳴り物入りだったのだろう。他誌にも取り上げられ、様々な講演会に引用され、Web上でも期待を寄せる書き込みがいくつかあった。当時、新聞連載小説としては飛ぶ鳥を落とす勢いだった渡部惇一の『失楽園』に、追いつけ追い越せの姿勢が感じられた。

 しかし、『平成三十年』には、堺屋太一も朝日新聞も見落としていた、大きな落とし穴があった。数値に関する予測は、変数を設定すればあとはコンピュータが勝手にやってくれる。だが、20年後の生活描写は、自分の頭で考えない限り不可能だ。現状をどう飛躍させていくか、想像力の勝負になる。

 この点で、『平成三十年』は別の意味に発見された。作者である堺屋太一の想像力「以前」の問題として、彼は現状をほとんど正確には認識していないのだった。

 物語の性質上、話題はハイテクに触れることが多い。堺屋太一が『平成三十年』で語る「ハイテク」は、良くて今のまま、大抵は1990年代の現在より劣る代物で、かと思うと突飛な「ドラえもん」的ハイパー・テクノロジーが登場する。カタカナ言葉の意味も、取り違えたり根本的に誤解している場合が多い。例えば、 北國新聞NOW の講演要旨を読んで欲しい。ここで堺屋太一は「CD(コンパクト・ディスク)」と「CG(コンピュータ・グラフィックス)」を混同している(『平成三十年』でも「CDパソエン(コンピューター・グラフィックスを使った一人芝居)」という混同描写がある)し、「バーチャル・リアリティ」を、単に「本物じゃないものがテレビ画面に映ること」と理解している節がある(この説で行けば、ニュース・ステーションで久米宏が、ペルーの日本大使公邸の模型にCCDカメラを突っ込んでいたのもバーチャル・リアリティなのか?)。

 また、描写そのものも、「今やってることの言葉だけを置き換える」ケースが多い。「電卓」が「パソコン」に、「ファックス」が「Eメール」に、といった具合だ。特に「Eメール」に関する誤解はなかなか治らない。堺屋太一の想像における「Eメール」とは、まさに「特定のマシンから特定のマシンへの1対1でしか配信できないもの」・・・まさに「郵便」のイメージしかない。例えば私がbazil@lyra.vega.or.jpのメールを受信するためには、自宅で使っている東芝のSatteliteの中にあるEメール・ボックスを必ず開かなければならず、会社の日立製FLORA1010や、実家の富士通製Deskpowerでは見ることが出来ない・・・そんな無茶苦茶を真剣に描写するのみならず、「ネットワーク・ソサエティ」などと題して、そういう未来のネットワーク社会で、政治や経済の在り方を大まじめに主張しているのだ。

 おかげで一部の好事家の間では、『平成三十年』は毎朝目の離せない怪作として有名になってしまった。私もその一人であり、Web上で『平成三十年』の話題を始めた、比較的最初の方の人間だろうと思う。internetVEGAで展開している本来のページには、ある日www.asahi-np.co.jp・・・つまり朝日新聞のホストから大量にアクセスしてきたこともあった。

 平成9年11月頃には、技術的なテコ入れがはかられたようで、それまでの5ヶ月間、一度も本文中に登場しなかった「マウス」が現れたし、「クリック」とか「スクロール」とかいう表現も見られるようになった。だが、自分ではパソコンも触らないだろうし、インターネット・ユーザでもないだろう堺屋太一の根本的な誤解が解けるはずもなく、相変わらずの爆発表現に目を離せないまま、今日に至っている。

 H30 Maniax!では、そういう『平成三十年』の異常な世界を、有る程度認知している読者を前提として、よりマニアックに展開していこうと思う。だから、とりあえず『平成三十年』を読んでみたい、という方には、www.asahi.com上の「平成三十年パーフェクト・リンク」を用意したので、そこから本文に接してみて欲しい。また、『平成三十年』の爆発表現に対するツッコミ集は、未来世紀2018 平成三十年 私は五十一 というinternetVEGA上のページを参照していただきたい。新たに発見した『平成三十年』関係のページも、随時「平成三十年関連リンク」に追加していくつもりである。


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