JASRACに対する裁判

〜ジャスラックは違法著作物の利用許諾が許されるのか〜

この問題は、裁判所や一部の音楽家だけに関係する問題だけではなく、協会のあり方にかかわる問題であり、当方は問題を整理することにより皆様に問題提起し、皆様にその判断をお任せしようと考えます。

1 問題点

平成10年7月28日「記念樹」が違法著作物であるとして訴えが提起されたが、社団法人日本音楽著作権協会(協会)は、「記念樹」の利用許諾を停止せず、「記念樹」の利用を促進させたが、協会のこの「記念樹」の利用許諾行為は違法なのか及び過失(落ち度)があるのか。すなわち、協会の「記念樹」についての利用許諾行為は許される行為なのか、である。

2 地方裁判所の判断

東京地方裁判所第47民事部(地裁)は、協会には、その目的及び業務の性質上、他人の著作権を侵害しないよう万全の注意を尽くす義務がある、として、協会には著作権侵害の予見可能性及び結果を回避できる可能性があったのに、これを怠って「記念樹」の利用許諾を継続した行為には過失があるとした。したがって、協会は、違法著作物の利用許諾は許されないとした。

3 高等裁判所の判断

東京高等裁判所知的財産第4部(高裁)は、協会が利用許諾行為を継続した行為は、協会の措置としてやむを得ないものと評価しえるのであり、過失はない、すなわち、協会は違法著作物の利用許諾が許されるとした。理由は極めて解りにくいが、(1)「記念樹」は著作権侵害かの判断が困難であった。(2)利用許諾を継続して著作物使用料を分配保留する措置が、より穏当で、かつ、合理的な措置である。すなわち、分配保留をしているなら、著作権を侵害されている者の損害はすべて確実に賠償されるのであるから、これ以上の利用許諾の停止は必要がない。(3)協会は、損害賠償責任を果たすことが金銭的に不可能な団体である。

4 弁護士の感想

  • 問題は単純であり、協会は違法著作物の利用許諾が許されるのか、また、著作権侵害訴訟が継続していたばあいでも協会には過失(落ち度)がないのか、である。
  • 司法関係者の中で、協会の違法著作物の利用許諾が許されると考えるものはほとんどいない。高裁も許されないことを前提にしている。過失がないと考える者は皆無であるとは言わないが、極めて少数である。ほとんどの司法関係者は、協会には故意(確信犯)があると考える。
  • それでは、一般国民の常識であるが、そのほとんどは、協会が違法著作物を利用許諾することは許されないし、もし、違法著作物を利用許諾していたなら責任を取らされるのは当然であると考える。どのような高度な理論を述べようとも、理解できないとは考えるであろうが、この常識が覆されることはないであろう。
  • したがって、地裁は当然のように疑問もなく過失があるとした。ところが、高裁は過失がないとした。そして、理由は分かりにくく説得力がない。それでは、高裁はどのような理由から過失がないとしたのであろうか。もちろん高裁は、過失を否定することが、日本の社会のために最も適切なことであると確信している。それはなぜかであるが、協会を敗訴させた場合の協会に対する影響を大きく心配しているからである。すなわち、協会が敗訴するなら、「協会の業務に取り返しのつかないほどの大きな支障が出てしまう」と考えているということである。したがって、本件訴訟では、「協会の業務に取り返しがつかないほどの大きな支障が出てしまう」のか否かが、現実的な問題なのである。また、この問題は、協会を敗訴させた場合の協会にもたらす好影響との利益衡量の問題である。当然に、金井側は、協会を敗訴させることが、協会を健全にするし且つ協会の業務に対する支障はわずかであるとの確信があるが故に本件訴訟を遂行している。しかし、この判断は、関係者各位にお任せするほかない。少なくとも、高裁は協会敗訴判決による好影響よりも悪影響を重視したことが明らかになった。
  • 協会敗訴の判決は、協会にそれなりの影響を及ぼす。この場合に、その悪影響と好影響は具体的に検討する必要がある。悪影響として、[1]損害賠償を支払わなければならない。これは協会の経済力から見るなら取るに足らないことである。[2]違法著作物の利用許諾を中止しなければならない。これも当然のことであるし、すでに、違法著作物の管理除外措置などを備えているが、今以上の措置としても、負担にならない程度のチェック機構を構築すれば足りる。[3]会員及び音楽著作物の利用者からの信用をなくしてしまう。しかし、これに対しては、会員及び利用者から信頼されるように業務を改善すれば足りることであり且つ改善する必要があるのである。[4]これ以上の悪影響は考えられないが、協会が強調していたような業務の執行ができなくなるなどということはありえない。これに対して、好影響としては、[1]協会はこれまで裁判所から過ぎるほどの保護を与えられてきたために法律を重視し法律を守らなければならないとの意識が限界にまで希薄化している(違法著作物の利用許諾の継続---モラルハザード)。ところが、今回協会敗訴判決が下されるなら、協会は法律を重視し法律を守ろうとする改善が必要となる(コンプライアンス)。[2]本件裁判では、この好影響が目的のすべてといっても良いであろう。この改善が進行するなら、協会は会員及び利用者から信頼され強固な団体として存続できるが、改善できずに、会員及び利用者から見放されるなら急速に衰退する可能性がある(三菱自動車の例が分かりやすい)。今回の高裁判決はこの改善を困難なものにする可能性がある。[3]これ以上に金井側が協会を乗っ取るなどということが吹聴される可能性があるが、役員及び構成員をどうするかは会員及び利用者の総意により決定されるのであり、全く現実性を欠いた戯言である。
    このように考えるなら、高裁は、協会に対する悪影響を過剰に誤解したのではないかと考えざるを得ない。
  • 金井側は、主としてこの好影響を目的として裁判を遂行してきた。したがって、金井側は、これまで損害賠償として得た金銭以上の費用を費やしている。そして、協会に対する地裁の判決が下されたことにより目的は達成されたとして控訴しなかった。ところが、思いがけずに協会だけが控訴したために、仕方なく控訴に付き合うと共に、今後の裁判にためにも損害額の計算方法を確立しておく必要があるとして控訴期限経過後に附帯控訴した。ところが、場合によっては、地裁の判決をそのまま認めるだけの判決かもしれないと考えていたところ、今回高裁が意外な判決を下したために、金井側は苦慮することになった。すなわち、この高裁判決は、協会及び裁判所の問題であり、金井側はやるだけのことは十分にやっており、金井側には関係のない問題に見えるからである。もはや、協会及び裁判所の問題としてどうするかを処理していただきたいという心境となっているのである。
  • 今後この高裁判決がどのように影響するのかを分析する必要があるが、協会としては、この高裁判決に基づいた業務をどのようにすればよいのかについて困ることになるのではないか、また、裁判所としても、このような判決は取り消しておく必要があるのではないか、ということが問題になるように思える。いずれにしても、当初、金井勝訴の判決の予定を判決言渡し直前に変更し金井敗訴の判決としたためと思われるが、判断の理由が極めて解りにくいし、誤解していると思われる部分がある。特に、著作物使用料の分配保留措置に関する規定の丁寧な解釈が必要である。

平成17年2月21日
(有)金井音楽出版弁護団