ANNE BOLEYN Museum of Art

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「祈り」 岩絵具・紙本彩色 M12


村山美代子 Murayama Miyoko

1982 東京生まれ
2005 東京芸術大学 美術学部 絵画科 日本画専攻 卒業

2007 佐藤太清賞 公募美術展 入選
     個展 Gallery 銀座フォレスト
2008 佐藤太清賞 公募美術展 入選
     個展 Gallery 銀座フォレスト
2009 練馬区民美術展 教育長賞
     個展 Gallery 銀座フォレスト
2011 練馬区民美術展 区長賞
     ACT OPEN STUDIO 2011 Artcomplex Center of Tokyo
     グループ展 ホープ -きぼう- in Japan 練馬区立美術館
     グループ展 クリスマスルーム Nroom artspace     
2012 ACTアート大賞 佳作入選
     神戸アートマルシェ 2012
     個展 トモニユカマシ Artcomplex Center of Tokyo 
2013 ACT チャリティー小品展 2013 
     個展 吾を統ぶ緑 Artcomplex Center of Tokyo
2014 ACT 小品展 2014
     絵の現在 第41回選抜展 銅賞
     個展 エイエンノニワ Artcomplex Center of Tokyo  
2015 ACT 小品展 2015
     セフィーロ展 小田急 新宿店
     Fad Fair 2015 Artcomplex Center of Tokyo
     黒衣のイブ2(後半) 銀座かわうそ画廊



村山美代子の作品にあっては、画面の主題と装飾とが渾然一体となった対位法(ポリフォニー)をなしている。

バロック音楽の形式であるカノンのように、

先行するテーマがあって、それを別の声部が忠実に追いかけるが、今度は先行する声部が追いかけて繰り返されるテーマの旋律を装飾するように絡み、それをまた追いかける声部が忠実に模倣して繰り返していく。

かくしてテーマは少しずつ変形されつつ

全体としてのまとまりを構成していく。私は、村山美代子の「祈り」を見て、これはJ.S.バッハの2声のインベンション第2番ハ短調の論理だと思ったのだ。
中心となる女性像とそれに絡む花は、渾然一体となった総体をなしていて、どちらが主題でどちらが背景の装飾ということがない。ある人は、もちろん大きく描かれた女性をテーマと見てとり、伏せ目がちな女性の内省的な精神が、前面の花の形象を借りて象徴的に表出されているように見るだろう。またある人は、むしろ前面に押し出している花こそがテーマであって、可憐な「女性」性を象徴することが多い「花」という形象が、鮮やかな色彩ながらも上品に清楚に咲いている、

その精神性、志のようなものを、

女性という表象に逆に還元される形で擬人化して自己表現しているようにも見るかも知れない。どちらを先に歌いだす声部としてとらえるかによって、全体の印象が異なってくる点で、バッハのカノンより複雑であり、「開かれた作品」としての現代性をも内包しているといえる。
この「祈り」という作品タイトルを読み解くカギは、両者に絡む細い茎のような線が、この植物の茎でもあり、同時の女性の髪の毛の外延でもある点に求められるだろう。かつて東大寺大仏殿の建造にも用いられた女性の髪の毛は、外見に反するその強靭な耐久力によって、女性の強い情念や執念を象徴するものである。つまりこの女性と花を絡め取って一体化させているのは、女性の強い情念なのである。

ほんのひと時次々咲いては萎れ、

やがて実を結んで枯れていく儚いものを、強い情念と執着によってこの世界に留め、人々の心に焼き付けようとする。あるいは逆に内なる情念を吐き出しはせず、花の儚き美しさとしてのみ見せて枯れていこうとしているのかもしれない。
女性という存在をポリフォニックな論理を内包したダイナミズムとして、しかも静謐な画面において描き出そうとしている村山美代子に、象徴的表現の集成である日本画の新しい可能性は、やはり作家独自の世界観の追求にこそあるのだという思いを新たにした。



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