ANNE BOLEYN Museum of Art

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「The Plateaux of Mirror-鏡面界」

リトグラフ/デジタルプリント 1500×1500mm


西川洋一郎 Nishikawa Yoichiro

1959 佐賀県生まれ
1985 多摩美術大学大学院修了
1987 88 文化庁国内研修員修了

受賞
1983 大学版画展('83,'84買い上げ保存賞)
1984 日動版画グランプリ展('84二席受賞)
     期待の新人作家大賞展('84買い上げ賞受賞)
1987 神奈川県展('87特別奨励賞受賞)
     日本版画協会展('85,'87賞候補)
1988 ミヤコ版画賞展('88スポンサー賞受賞)
     和歌山版画ビエンナーレ展
     中華民国国際版画ビエンナーレ展
     日仏現代美術展
     日韓現代版画交流展
     日韓現代版画交流展
     CWAJ現代版画展
     ミューズ秋の美術展「屹立のリリシズム」
2004 台日蔵書票交流展(特撰奨受賞)
2005 池田満寿夫記念芸術賞(優秀賞受賞)
2006 草枕美術展(最優秀賞受賞)
     プリンツ21グランプリ展(特選受賞) 
     川の絵画大賞展(大賞受賞)
2007 HEARTLAND KARUIZAWA DRAWING BIENNALE
     あおもり国際版画トリエンナーレ
     ソトコト-LOHAS ILLUSTRATION CONTEST (ソトコト賞)
2008 第17回青木繁記念芸術賞展
     プリンツ21グランプリ展(新日本造形賞)
     FUKUIサムホール美術展(佳作受賞)その他
2009 the Stream of International Prints (韓国)
2010 日本・ポルトガル交流展

作品収蔵
ロックフェラー財団
シンシナティー美術館
ハンブルグ美術館
シンガポール美術館
テトラパックジャパン
多摩美術大学美術館
イスラエル/ティコティン美術館
米国議会図書館
大英博物館 その他

社団法人日本美術家連盟会員
多摩美術大学非常勤講師



西川洋一郎の作品群は、デジタルプリントをベースにしてリトグラフや金箔銀箔の張り付けを融合させた独自のものである。その技法から生み出される色彩の美しさには、目を見張るものがある。

この「The Plateaus of Mirror-鏡面界」という作品も、暗闇と光、色彩のコントラストが鮮烈で、別に画面の向こう側に光源が存在するわけでもないのに、どこからか差し込んでくる光を強く意識させられる。

それが静謐な画面に

不思議な奥行きを与えており、まるで、極限の透明度で知られる柿田湧水の水中でも覗き込んでいるかのような透明感と浮遊感を覚える。この画面が描き出す空間は、未知の透明な物質に満たされており、それによって重力を減殺する浮力のようなものが働いているのだ。

この心地よい緊迫感と

静謐感の背後には、きっと西川洋一郎独自の論理というものがあるのだろう。それは「鏡面界」という作品タイトルにあらわれているはずだ。
画面の中には、いくつもの鏡面が描かれている。だから、その鏡面を境界にして鏡の背後には実在しない虚の世界がいくつも存在していることになる。鏡面の前側、こちら側には実在の世界があるのだが、それは描かれておらず、鏡の中の反転した虚の世界から実在世界を類推し認識するしかないという構造になっている。

インド哲学の原子論的な世界観では、

宇宙は、太古から変わらず存在している不可分の一なる全体、すなわち質量不変の宇宙原形質であるブラーフマンが遍満している。そのブラーフマンには密度の濃淡があって、希薄なところは空中のように窒素・酸素・二酸化炭素と物質は実在しているのに一見、何もない「無」であるかのように見える。そして密度濃いところは、固体として、また個体として存在するさまざまな事物があるように見える。かくしてどういう因縁があってか、不可分の一なる全体の各部分に「個」という分離独立した実在があるかのように見え、さらには「私」という個体の自己意識が生じてくる本体は宇宙を遍満する不可分の一なる全体であるにもかかわらず、そういう多様な「個」の集成としてこの世界が立ち現われてくる。

質量不変の法則を貫きながら、

このように無限の多様性をこの世界が示しているのは、西川がこの作品で示すように、鏡面の向こうに見えてくる虚の世界を内包するからなのかもしれない。西川洋一郎が切り取ってみせる画面は、この不可分の一なる全体としての世界は、その内部に無数の「鏡面界」を抱えることによって、虚実入り混じった無限の多様性の世界として顕現するということを語っているのかもしれない。
 感性鋭敏な作家が、無意識のうちに感得して描き出す世界は、このように哲学的な論理を内包しているというのが、実になんとも楽しいではないか。



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