ANNE BOLEYN Museum of Art

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「転がる話」 技法:木製パネル、アクリル、胡粉、油彩 サイズ:SM

こぺんなな copen nana

1984 デンマーク生まれ
     北海道札幌市出身。生後まもなく帰国し日本で育つが、
     自身のルーツにちなみ作家名は生まれた街コペンハーゲンに由来。

2008 東京藝術大学美術学部先端芸術表現科卒業

【受賞】
2013 月間美術美術新人賞デビュー2013入選
     ACTアート大賞展2013入選
2014 横浜アートコンペティション 審査員賞 天野太郎賞受賞

【個展】 
2011 「模様の冒険」カフェギャラリー maruchan/東京
2013 「色と形の踊り」 アートコンプレックスセンター/東京

【グループ展】
2013 「美術新人賞デビュー入選作品展」ギャラリー和田/東京
     「REALISM COMPLEX in Berlin」 新生堂 Tokyo Berlin Art Box/ドイツ
     「next〜次代〜」 瀧川画廊/大阪
     「池袋リアリズム•コンプレックス」 池袋東武百貨店 美術画廊/東京
2014 「横浜アートコンペティション入賞者展示 1年間/横浜
     「東武春の絵画市」 池袋東武百貨店 催事場/東京
     「ART@JUNGLE 八丁堀@ラヴPOP」 美岳画廊/東京
     「京都アートフェア2014」 みやこメッセ/京都
     「アンデルセン大好き」展 ギャラリー枝香庵/東京
     「ブルー」展 ギャラリー枝香庵/東京
     「未来を担う若手作家展」 松坂屋百貨店静岡店/静岡
     「サマーフェスタ2014」展 ギャラリー枝香庵/東京
     「日本橋@ラヴPOP」展 オンワードギャラリー日本橋/東京
     「神戸アートマルシェ2014」 タキガワギャラリーより/神戸
     「大阪@ラヴPOP」展 瀧川画廊/大阪



こぺんななの抽象画面を見ていると、

抽象主義が本当に新しい時代に入っていることを実感させられる。

20世紀にこの手法が始まった頃は、過去の歴史にはなかった非戦闘員をむしろターゲットとした大量殺戮によって国家の総力をそぐという第一次世界大戦のような現実そのものが、人間理性が構築してきた文化の倫理性や正統性legitimacyを根底から揺るがすものとなっている現実があった。

容認も許容もできない現実が、人間の存在意義の根底を揺るがし、かつ人間を息苦しく支配し圧殺してくる力を持っている。言わば大文字のREALITYを、さまざまなレベルで抽象化し分解し、1/1の現実であったものの解像度を変化させてみると、当然のものとして眼前に立ち現れていた世界の、別の可能性や本質が見えてくる…そうした強い志向性や実験への意志が、抽象主義と共にあったものだ。

ところが、こぺんななの画面は、まるで万華鏡を覗いているかのように、何か実体のない幻影を次々と見せられているような軽やかさがある。

無重力状態のような浮遊感。

もはや動かせないような現実、事実の重みのようなものは存在せず、バラバラの粒子の集合体と化した膨大な時事や情報のmassがただ存在しているだけ。この圧倒的な情報量を一つの物語にまとめて「これが世界だ」と認識できることがなくなっているような気がしてくるのだ。

万華鏡の中の幻像は、

回転させれば次々と無限の美しい夢を楽しませてくれる。
しかし、それはどこにも移動していかないし、拡散も集合もしていかない、方向性も上下もない無重力な宇宙空間における、ただの無限の転変なのである。これは、相互に無関連なままの膨大な情報の集積と化した世界の姿なのではないか。
こぺんななが見ている世界は、膨大なビット数の情報の集合体であって、その総体に大きな物語や神話性を賦与することなど最初から眼中にはなく、目の前に切り取った素材からきれいなミクロコスモスを構成している…というのがこの画面なのではないか。このように見てくると、

こぺんななの明るい色彩によるコンポジションは、

実に深いニヒリズムに支えられているように見えてくる。いや、ここにニヒリズムを見出すのは、むしろ古い視点に立った、「意味を見出そうとする病」なのかもしれない。

この軽やかな画面は、

技法上のルールに縛られたシェーンベルクの後継者たちの音楽の息苦しさとは無縁で、精巧な機械仕掛けの音楽世界を構築したモーリス・ラベルのピアノ曲のように洗練された軽やかさと諧謔性をたたえている。そしてラベルの音楽のように、美しく耳ざわりも良く、少しも抽象度が高くないようでいながら、逆にニヒリズムを秘めた万華鏡的な世界のような気がする。
画面に配置された色やフォルム、線の方向性が、どこにも収束点や指向性を持たず、無限にからからと回転していく。こうした技法的な工夫への注目を横に置かせてしまう、この作家の世界視点の軽やかさに、私はたじろいでしまうのだ。



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