ANNE BOLEYN Museum of Art

index



「光の中で」 oil on canvas 22.7×15.8cm

松岡 美子 Matsuoka Yoshiko

兵庫県生まれ
神戸女子薬科大学卒業

【アートフェア】
2003 第16回 Nagoya Contemporary Art Fair (名古屋)
2009 Art Daegu 2009 (大邸・韓国)
2010 神戸アートマルシェ 2010 (神戸)
2012 AHAF-Asia Top Gaiiery Hotel Art Fair (ソウル・韓国)‘10
2013 KIAF-Korea international art fair (ソウル・韓国)‘12 ‘11 ‘10 ‘09
 
【個展】
2006 すどう美術館 (銀座・東京)
2010 A.Jain.Marunouchi Gallery (ニューヨーク)
2011 ギャラリー風 (大阪)‘10
2012 ギャラリー島田 (神戸)‘09
2013 ギャラリーゴトウ (銀座・東京)‘12 ‘11 ‘10 ‘09 ‘08 ‘07 

【グループ展】
2008 A-21国際美術展・ドイツ展 (ドイツ)‘07 ポーランド展 (ポーランド)
2012 麗水EXPO記 韓・日・中 特別招待展 (ヨス・韓国)
     パク・ヒスク&松岡美子二人展 (ギャラリー風・大阪)
2013 日韓絵画交流展 (ソンナム・韓国)‘12



丹念にキャンバスを塗りつぶし、厳しさを感じさせるほどの重厚なマチエールを作り上げる。
何か執念のようなものさえ感じさせる松岡美子の緻密な筆捌き、ナイフ使いの切れ味は、キャンバスの奥深くに凝縮した情念のようなものを塗り込めていく。「ここには時を隔てた生の痕跡、化石化した情念のようなものが隠れている」と感じた。

見る者は、画面のひび割れを想起させるフォルムの向こうに潜むものを暴き出したいと思うだろう。

そして絵画それ自身は、表面の奥に隠された、

圧力で凝縮され乾ききった何物かの痕跡があることをこちらに強く主張してくる。
キャンバスの表面が、塗り込められた想念と、それを掘り出したいと思う考古学者のような視線とが交錯する臨界面をなすのだ。
このひび割れた表面を剥がしてみたら何が現われるのか。それはパンドラの箱を開けてしまうことにならないのか。キャンバスという薄い一枚の布が、重厚な体積を持った物体の表面であるかに見えてくる。

この落ち着いた色調、明るさの作品に、

「光の中で」という題名をつけた作家の意図はどのようなものなのだろうか。普通に考えれば、見る者が立つ照明に照らされたこちら側の空間に光が満ちていて、キャンバスという臨界面を剥がしていったら、そこから隠されていた暗黒の世界の何物かが掘り出されるように思わせる。しかし松岡美子の作品の論理はもう少し複雑である。

キャンバスの奥に潜む向こう側の世界を掘り起こしたいと思って凝視している私たちの視線は、まさに考古学者、古生物学者のそれとして、化石化した太古の「生の営み」の痕跡をこの壁の向こうに探し求めているのだ。
ならばこのマチエールの壁を剥がした向こうに埋もれているのは、太古の生命の痕跡、太古の世界の痕跡、言ってみれば

太古の光の化石なのである。

「光の化石」という言葉をキーワードにしてこの作品を眺めてみると、この黒い線のフォルムが、古代の文字の痕跡にも、生物の化石の一部が露出し始めたようにも、そしてポーズする人間を象徴している図像のようにも見えてくる。
長い時間の経過で炭化した生命の痕跡が、こちらの光の中に未知の意味やメッセージを投げかけてくるのである。
ここには何かの遺跡のようなものと対面するような厳粛さがあり、同時に、それを眺めている私たちもやがて遺跡となり化石となっていくのだという、諸行無常、悠久の時間の流転という真実を突きつけてくるメッセージ性がある。

化石化した生物に与えられていた生の時間は遠く過ぎ去った。そしてそれを眺めている私たちに与えられる時間もやがて過ぎ去っていくだろう。

悠久の時をくぐり抜けて来て、

なおも形を変え、姿を変えて進化しつづけている生命現象。この生命という光あふれる存在のただ中にあって、私はこの絵の前に佇んでいるのだ。何重にも交錯する視線と意味の渦…「光の中で」とは、きっとこういうことなのだと思う。



index