ANNE BOLEYN Museum of Art

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「薔薇と潮風」 油彩 F10

加山 亜矢子 Ayako Kayama

現代日本美術会会員/審査員

神奈川県生まれ
女子美術大学附属高等学校卒業
女子美術大学(短期大学部)卒業
2007 現代日本美術会賞 大賞受賞 及び 会員推挙賞受賞
     現代日本美術会賞 大賞受賞記念展
     アン・ブリン美術館 作品収蔵
2008 第7回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     個展 ギャルリーパリ 横浜
     現代日本美術会賞 年間優秀作家賞受賞
     薔薇を描く油絵展 小田急 町田店
     新鋭から巨匠まで 日本画・洋画・彫刻 松坂屋 上野店
2009 第8回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     個展 横濱ありあけ本館 HARBOUR'S MOON YOKOHAMA
2010 第9回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
2012 個展 美岳画廊 東京・銀座
2013 第12回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     個展 ギャラリー華沙里 川崎市・新百合ヶ丘
2014 第13回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     すべては猫のために vol.5 ギャルリーパリ 横浜
     スペイン・ポルトガル取材旅行
     現代日本美術会賞 審査員推挙
2015 第14回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     スペイン・フランス取材旅行
2016 第15回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     イタリア取材旅行
2017 第16回 新春21世紀展参加 ギャルリーパリ 横浜
     スペイン・ポルトガル取材旅行
     加山亜矢子 絵画展 小田急百貨店 新宿店 本館 アートサロン
2019 ウィーン オーストリア・スロバキア取材旅行
     絵画作品取り扱い開始
     Gallery 19C
     Beverly Hills, California, USA
     (ビバリーヒルズ、カリフォルニア、アメリカ)



現代日本美術会賞で大賞に輝いた

加山亜矢子の作品を見た。
よく「彗星のごとく現れた」という言い方をするが、実際には彗星も軌道計算まで正確に出来上がっているように、大賞を受賞するような作家というのは美大在学中からそれなりに噂が耳に入ってくるものである。
しかし加山亜矢子の登場は真に突如であった。

聞けば加山亜矢子は、美大短大部を卒業後、作家に入門して研鑚を積む道を選択したという。画家の弟子になるという、いわば古風な芸道を歩んだというわけである。

スペインのフラメンコを描き一世を風靡した

洋画壇の重鎮、二科会、斎藤三郎の孫弟子にあたるという華麗な具象絵画の直系の流れに位置するのだが、それを云々するのは止めておこう。
彼女の絵は、自分独自の画風を確立しようと勝負をかけているプロのそれだからである。師から許しが出るまで個展を開くといった活動はせず、ひたすら描きつづけてきたらしい。

小手先の技術に習熟することより、自分独自の対象の見方、表現スタイルや色使いの確立にひたすら目を向けさせる指導を受けたらしく、

すでに「加山カラー」

「加山亜矢子のピンク」と呼べる色使いと画風を持っている。しかもその独自のスタイルの個性は、これからますます強固なものとして確立していくだろう。

この若き女流画家は華麗な具象絵画の

系譜にあって、見ていて飽きない、長く部屋に飾っていて満足が揺るがない絵画というものをよく理解している。
女子フィギュア・スケートでトゥーランドットのアリアが人口に膾炙したが、朗々と歌われるオペラのコロラトゥーラは、不滅の美しさを持っている。
往年のマリア・カラスを、キャスリン・バトルの美声を知っているクラシック・ファンに向かって、この現在においてもプッチーニを歌いあげる挑戦と同じことを、加山は承知の上で行っている。まさに直球勝負なのだ。突然、現れたこの女流画家の衝撃に、

素直に脱帽しよう。

そもそも絵というものはカンヴァスの表面に絵の具を塗りつけてあるだけ。本当には奥行きも空間もないものだから、いくら目の錯覚を駆使しても、たいていの静物画はカンヴァスの表面の、奥行きもないすぐそこに花瓶や花があるように見える。しかしこの作家の描く静物とカンヴァスの表面との間には広い空間が確かに存在していて、

心地よい微風が流れているのだ。

しかも潮の香りが漂う初夏の海風ということまで感じ取れる。

彼女の絵の一枚を見てみよう。
まず浜辺のホテルかカフェに張り出したテラスがあって、そこのテーブルの一つにバラを豪華に活けた花瓶を置いて、作家はイーゼルを立てる。絵を見るわれわれにも、花瓶までの距離と空間が共有できる。
浜辺のテラスの向こうの砂浜には、夏用のボートが出番を待ってまだ重ねられているのが見える。奥行きはその距離だけ深くなった。その奥、沖合い1キロほど先には、気が早い人がヨットで遊んでいるのが遠望できて、空模様まで気になって眺めることになる。快晴ではないが陽光にあふれて、突き抜けて空が高い。

かくして広大な空間が、

絵の中で追体験できる不思議さ。表面に薄く塗られた絵の具の奥に、広大な空間がたしかに塗りこめられている不思議さ。

ボートの置かれた浜辺の部分だけで、静かな叙情をたたえた一枚の絵となりそうなのを私は見逃すことができない。遠景のヨットと空の広がりも独立した一枚になりうるほどしっかり描きこまれている。

これだけの要素が描きこまれているのに、印象はむしろすっきりとした明快なもの。遠景のヨットと空の爽快さに加え、野性的な強烈さを持ったバラのピンク色と豪華な花瓶の落ち着きのコントラスト、全体の明るい色調によって、南欧風の夢に満ちた画面になっている。しかし、髪に潮風が心地よい、南欧の浜辺でこれを描きました・・といった単純なものではないのだ。
海と太陽と潮風をありありと感じてしまうロマンチックな空想力こそがこの絵の魅力だろう。

眺めている私も、

そうした空想に感染してしまい、イーゼルに向かう作家の声が聞こえてくる気がする。
「陽が高いうちはボサノヴァでも流しながらカンヴァスに向かっていよう。熱いコーヒーを飲みながら夕焼けの空と海を眺めるところまで頑張ったら、お着替えしてオペラを聴きに行こう、もちろんイタリア・オペラじゃなきゃね、ドニゼッティだといいんだけど・・」そんなはてしない思考回路に次第に同調してしまい、どんどん現実からはなれていきそうだ。

夢見る少女の感性が、

老練な手腕を手に入れたことによってソフィスティケートされた空想を導いていく。見る者をその空想の回路へと感染させていく新鋭作家、加山亜矢子の登場に驚きつつ、今後の展開を注視していよう。


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