ANNE BOLEYN Museum of Art

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「Ie(陽)青:黄:赫=1:2:6」 油性色鉛筆・アルシュ紙 20.0×20.0cm

高島 進 Takashima Susumu

現代日本美術会会員

1959 兵庫県生れ
1982 武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業
1984 武蔵野美術学園油絵科修了
1987 アジェンデ美術学校(メキシコ)に1年留学
1999 個展 青樺画廊(東京・銀座)
     個展 ギャラリー舫 第3回アート公募'99ギャラリー舫賞展(東京・銀座)
2000 個展 モリスギャラリー アート公募プレゼンテーション展Part1(東京・銀座)
     木下晋・高島進・浜田賢治三人展(ギャラリー・しらみず美術/東京・銀座)
2001 個展 なびす画廊(東京・銀座)                    
     個展 ギャラリー舫(東京・銀座)
2002 渡邉早苗・高島進展(ギャラリーゴトウ/東京・銀座)
2003 個展 ギャラリー舫(東京・銀座)
2004 個展 ギャラリーゴトウ(東京・銀座)
2005 個展 ギャラリーテムズ(東京・小金井)
2006 個展 ギャラリー舫(東京・銀座)
     アートスコープ・ニューヨーク(ギャラリー舫ブース)
     アート上海2006(ギャラリーゴトウブース)

《受賞》
1990 第16回日仏現代美術展/日本テレビ奨励賞
1997 第2回昭和シェル石油現代美術賞展/奨励賞
     '97ABC美術コンクール/優秀賞
1998 第3回アート公募99企画作家選出作品展/ギャラリー賞
2000 第14回多摩秀作美術展/大賞
2002 第11回青木繁記念大賞公募展/優秀賞
2007 現代日本美術会審査員特別賞
2008 現代日本美術会会員推挙特別賞
 
《収蔵》 青梅市立美術館、ミュージアム小さなポケット、羽田空港



高島進の作品は、一種の織物である。油性の色鉛筆で丹念に丹念に線を引いていき、それを繰り返し重ねて造形を生み出していく。交わることなく引かれていく線は、あるときは太く、またかすれて細くなる。

ちょうど古代種の蚕の吐き出す

繊維が微妙な太い、細いの変化を持ち、それが紡がれ織られて繊細な光沢と風合いを生み出すようである。
このような繊細な生地は、染色すると形容しがたい色合いを生み出すように、高島進の根気よく引き重ねられた波線、直線は、眺めるわれわれの目にハレーションを起こして、虹のような光彩を放つのだ。
ファイバースコープの導線の束のように、油性色鉛筆の線が、あるはずのない光を宿している。
われわれは高島進の作品の微妙で繊細な色合いの美しさに目を奪われ、近寄って細部を見てその仕事の丹念さ、細密さに心を奪われる。

でも彼の作品の持つ本当の妖しさは、

鉛筆の線が宿す虹色の光と、無限の鏡像関係が生み出す不思議な奥行きにあるのだと思う。
鏡と鏡を合わせると、そこに無限の鏡像の連鎖から生じる道のような奥行きが生まれる。古来、これを魔道といって、悪魔の通り道として恐れてきた。
もちろん高島の作品は、鏡に鏡を映した映像なんかにはなっていないのだが、そういう神秘的な静けさ、妖しい光彩、微妙な虹色の光のハレーションを感じるのだ。しかもそれがこのように落ち着いた深い色合いで行われると、

その神秘的な雰囲気はいやがうえにも高まる。

油彩の作品で、白や明度の高い色で光をリアルに再現する作品は、いくらでも見てきた。しかしこのような落ち着いた暗めの色調で、このような光を感じると、いわば宝石のブラック・オパールの輝きの妖しさのようなものを感じずにはいられない。

私は、絵画作品を眺めながら、いつも背後に流すべき音楽を考えてしまうのだが、彼の作品に限っては、音楽は無用だ。深夜の、それも月明かりのもとで、誰にも見つからないように二枚の鏡を向かい合わせて悪魔を招来する秘密の宗教儀式のように、シーンと無音でなければいけないように思う。
あまりに静か過ぎて、耳鳴りがしてくるような状態でないといけない。

眺めているうちに、どんどん奥行きが深まっていき、視野も開けてきそうな幻想にとらわれて・・・ブーン、ブーンという音が聞こえてきたならば、夢野久作の『ドグラ・マグラ』の書き出しのように、なんだか前世の殺人の記憶まで思い出し、その頃の人格まで取り戻してしまう瀬戸際に立たされる気がする。

高島進の制作に打ち込む情念の深さが、

われわれのアイデンティティーを揺るがすような妖しさに誘い込むのだろう。昼間のうちは「暗い色調なのに美しい光を宿しているな」と眺めておき、深夜にこっそりこの絵の前で瞑想してみるのはどうだろうか。



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