ANNE BOLEYN Museum of Art

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「empty ground -時の断片-」
キャンバスに紙・ジェッソ・アクリル絵具・マスキングテープ・ニス F6

小峰 力 Komine Tsutomu

現代日本美術会会員

1973 東京生れ
1997 多摩美術大学卒業
     第8回TAMAうるおい展 審査員奨励賞
2000 個展 ギャラリー千空間企画 代々木・東京
     佐藤拓人・小峰力 2人展 目黒区美術館 区民ギャラリー
     HAP 小峰 力・佐藤たくと二人展(ギャラリー千空間)
     以後'10 '12(詩穂音)'13 '15(中和ギャラリー)
2001 グループ展「アジアの夜明け」 中和ギャラリー 銀座・東京
2002 個展 銀座中和ギャラリー(以後'03 '05 '07 '09 '11 '12)
     *2007年画廊企画
     個展 日立詩穂音シフォン企画(以後2011年まで毎年)
2003 個展 中和ギャラリー 銀座・東京
     グループ展「IN THE BOX」ぎゃらりぃ朋 銀座・東京
2004 グループ展「IN THE BOX」ぎゃらりぃ朋 銀座・東京
2005 個展 中和ギャラリー 銀座・東京
2006 現代日本美術会審査員特別賞
     個展 第40回レスポワール 銀座スルガ台画廊企画
2007 現代日本美術会会員推挙特別賞
2010 第5回未来抽象芸術展(スペース・ゼロ)以後'15まで毎年
2012 第4回ビエンナーレうしく 入選
     個展 日立space369企画
2013 個展 京橋K'sギャラリー
     個展 水戸ギャラリーしのざき企画
2015 個展 銀座K's Gallery
     個展 日立O'keeffe(三春)企画

その他 東京、茨城、福島、大阪、名古屋、韓国、バングラデシュなどで個展グループ展多数



小峰力の作品は、カンヴァス地に紙が貼り付けられていたりする一種のミクストメディアの手法であるが、抽象の画面構成とマチエールの面白さに頼ろうとはせず、むしろ落ち着いた色彩によって静謐な幻想の世界を構築している点が面白い。

この幻想の世界というのは、

おそらくは小峰自身の意図とはかけ離れたものなのだろうが、私は彼の色彩からダ・ヴィンチの「荒野の聖ヒエロニムス」のような映像を連想してしまったのだ。聖ヒエロニムスとは、4世紀頃のラテン語訳聖書に関わった教父であるが、古典文学の学識の深さを「お前は聖書よりキケロを好むのか」と天使に叱責され、石で自分の胸を叩いて罰を与える場面を描いた作品である。

時代もかけ離れ、

写実の極地を示している作品と小峰の抽象作品とに不思議に共通しているのは、その濃厚に宗教的な雰囲気なのだと思う。しかも平穏な敬虔さではなく、歴史を身にまとった切ない感情なのである。旧約聖書のエレミア哀歌とかヨセフスの『ユダヤ戦記』のような世界にふさわしい。
およそ抽象作品を前にすると、人は解読のキーとなる記号やフォルムを探してしまうのだが、彼の作品の前ではそれは通じない。私は、何重にも重なって張り付いてしまったネガフィルムを一枚一枚引き剥がすように見ていって、

イメージの豊かさに驚愕した。

まず表面に張られた紙に焦点を合わせてみると、表面に塗られただけのような画面下部の絵の具が奥行きを持った景色となって二重写しに見えてくる。これは古代の遺跡の石組み、それも徹底した破壊による荒涼たる姿が月光に照らされて浮かび上がるかのようだ。この幻想的世界の明確さはどうしたことだろう。
そこから画面中央に焦点を合わせると、今度は「最後の晩餐」の構図として描かれるような室内の風景が見えてくる。

えっ、とおもって近寄ってみるとそうしたイメージは消えうせ、やはり表面のマチエールに神経を注いだ抽象絵画作品が目の前にあるのだ。そこで二歩、三歩とさがって眺めると画面いっぱいに何かイメージでも隠されてあるような気配を感じる。

画面の奥行きの

どの距離に焦点を合わせるかで見えてくる風景がちがってくるのだ。これは、何かの対象とかリアリティーを抽象化したのではなく、イメージの重ね焼きなのである。それにしても私には、ローマ軍に攻められたユダヤ熱心党玉砕の地、死海近くの絶壁に建つマサダの城砦宮殿の映像すら思い浮かべてしまったが、ヨセフスだけでなくテレビの紀行番組や山本七平『聖書の旅』の記述が甦ってきたのだろう。

そんな記憶が

ダ・ヴィンチの聖ヒエロニムス像の宗教性につながっているのだろうが、自分でもその幻想世界の明確さに驚いている。しばらく時間を置いてもう一度眺めたら、はたしてどんな風景が浮かんでくるのか。この画面が内包するイメージの豊穣さにスリルすら感じる。



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