ANNE BOLEYN Museum of Art

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「北斗七星」 板・モデリングペースト・アクリル 105.0×72.0cm

伊東 正也 Ito Masaya

現代日本美術会会員

1971 東京都生れ
1993 ART BOX 大賞展入選
1995 武蔵野美術大学専攻科卒業
1999 自主制作映画「HOJIN 歩人」美術・造形担当
2002 グループ展「代官山ナーレ」
2003 個展「LIVELY」ギャラリー・ベガ
2004 グループ展「迷宮展」
     個展「精力的」代々木アートギャラリー
2005 現代日本美術会特別賞及び会員推挙賞



伊東正也が描く世界は、

不可思議に埋め尽くされた

独特の異空間。廃工場のようであったり一種の宇宙ステーションを思わせる形の建物が、地球のような宇宙のような、夢の世界のような風景の中で宙に浮き水面に浮いて静まり返っている。巨大な岩塊をくりぬいて造り上げたようにも、分厚いコンクリート造りのようにも思える重量感あふれる建物の質感までわかるのに、

それが無重力といった感じに

フワリと浮いているのも確かにわかるのだ。
現代文明が滅びた後の遠い未来社会のようでいてハイテクの雰囲気がなく、発見された高度な古代文明の遺跡のようでもある。未来でも過去でもなく、永遠に時間が止まった世界のようでもある。人物は現れず、というより人間の痕跡がどこにもない。しかし、なぜだろう、懐かしい気持ちにさえもなる。

これは、カメラ・アイでとらえた映像ではなく、

たしかに人間の目が見ている映像なのだ。だから常に一人だけ人間がいるわけだ。「これは誰かの見ている光景なのだな」とわかるというのも不思議なことだ。建築用の板材に描かれた作品のマチエールは、材木の木目や凹凸が自ずと活きて温かい雰囲気を生み出している。そのためだろうか、描かれた荒涼たる風景が決して無機質なものに感じられない。むしろ無機質と化そうとする自然に対抗して、

自己の生理と精神性を保持するための

シェルターとなる建物・造形を描いているようにさえ思える。

『青い鳥』や『ペアレスとメリザンド』の著者、メーテルリンクには、『埋もれた宮殿』(栗原古城による古い翻訳では『万有の神秘』となっている)という神秘主義的宇宙論があって松岡正剛が『遊学』で紹介しているが、伊東正也の建物は「埋もれた宮殿」を連想させる。メーテルリンクは、同時代の神秘主義が言う宇宙観における霊性の欠如を批判した。

超自然が充満した

伊東正也の異空間を眺めていると、歴史は不可逆的に進歩し過去はむなしい空虚なものだとする考えや人間の未来には破壊と絶望しかないとする悲観的な考えもどこか間違っているんじゃないかと思ってしまう。

霊性の欠如しているところに失望や不運が見出されるのであって、

大きな意志に基づいて

必然性に埋め尽くされた宇宙の出来事には不幸な出来事など存在しないのだと主張したメーテルリンク。彼は、ふと見ると探し求めていた風景が現前しているという顕現の瞬間を言う。われわれには根本的なイメージが決定的に欠落しているのだ。だから全てが隠されることなく現前しているのにそれと認知できない。
伊東正也の織り成す筆致はすべてをとらえ始めているのだろう。



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