ANNE BOLEYN Museum of Art
「intervals-東大寺大仏殿回廊扉部分-」 各41×24cm 油彩・混合絵具
津田やよい Tsuda Yayoi
現代日本美術会会員
1976 大阪生まれ
1998 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻入学
2003 同大学大学院美術研究科技法材料研究室在籍
賞歴
2000 安宅賞受賞
2002 卒業制作
台東区長賞受賞(台東区買い上げ)
O氏記念賞受賞
2004 現代日本美術会特別賞及び会員推挙賞
驚くべき精密な描写力というのには、
まま出会うことがある。しかし津田やよいの筆致は、リアルさを増せばますほどシュールな世界認識をわれわれに投げかけてくる。
彼女の作品では、東大寺大仏殿回廊扉など大和の古寺の扉が、年経てかつての丹色の塗装が挙げ、木材が古び、鋲は錆を深め、…といった様子が、まさにそのまま切り取って収集してきたかのように
現前している。考現学の分野で、このような収集品の陳列が実際にありそうだが、前に立って眺めていると、そのように朽ち傷んだ表面に反して、その内部がいまだ創建当時の頑強さを保ち、その建設にあたった人々の熱き情熱を秘めていて、触れれば意外にひんやり冷たく、どっしりとした質感を覚える…といったことまで伝わってくる。この板は20cm以上の厚味はあるはずだ、などと勝手に確信してしまうのである。
緑深い森があるところでのみ見かけるオオミズアオのかそけき青味がかった白の迫真の描写など、老練な作家を想わせるが、実は、まだ若い大学院生(2003年当時)なのだという。
このようにリアルで精密な描写なのだが、眺めていると笑い出したくなった。錆びた大型の鋲が浮き上がってくる。砲丸のように見えてくる、たしか陸上部の先輩が…などと思い出しているし、このオオミズアオはどこから来たのだろう、たしか子供の頃、いつも広げていた、あの図鑑でこの蝶が好きだったのだけれど、次のページにはヤママユ蛾科の幼虫の絵が気味悪かったな…などと私は考えていたのだ。見る者の想像力を刺激して、
いつの間にか想像、回想にはまり込んでいるのだ。なんとも痛快ではないか。
具象の極致のような作品なのだが、対象を見極めようとするこの作家の視線の狂暴さが、とんでもなく膨大な情報を対象から取り出し、また画面に再現している。それに感応してわれわれは、細部、細部からイマジネーションを引き出してしまうのだろう。
この狂暴な眼力の暴れぶりの小気味よさには、一本取られた、と苦笑するほかないだろう。
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