ANNE BOLEYN Museum of Art

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「振り向く女」 50F 油彩

中島裕子 Nakajima Yuko

現代日本美術会会員/評議委員

     斎藤三郎に師事
1944 京都府舞鶴市に生まれる
1965 東京女子美術大学卒業(短期)
1967 第52回二科展初入選(以降連続入選)
1970 第55回二科展デンマーク賞受賞
     渡欧(スペイン、ポルトガル、フランス、イタリア)
1972 渡仏
1973 帰国 第一回三姉妹展(東京そごう)以降毎年開催
     二科会会友推挙
1978 日動画廊 女流選抜展
1979 三越エトワール展
1980 第一回三越女流選抜展
1981 第二回三越女流選抜展
     以降年二回個展開催(小田急新宿、京王、銀座松坂屋、渋谷西武、そごう)
1990 ミスクレア店キャラクター商品
1996 二科会脱会
2000 池袋三越三姉妹展
2003 現代日本美術会 名誉会員推挙
2004 現代日本美術会 評議委員推挙

     三越レディースライフ表紙、文庫本表紙、挿絵等
     TV出演 三姉妹展(リビングイレブン) 美術の秋(NHK)
     雑誌掲載 女あり(アサヒカメラ・撮影/中村正也)
     婦人公論(森 瑶子) 婦人公論(うつみみどり)



「振り向く女」は、ポーズを取る女性と花瓶のバラの花、ネコだけによって構成されているが、画面全体に花びらが散りばめられて実に豪華絢爛たる空間が構築されている。

花瓶の花がこぼれて、

その妖精たる女性の姿を現わしたような、あるいは女性の蠱惑的な一瞥によって一陣の風が舞い起ったような、…なんともmagicalでかつ無駄のない最小限の道具だてによって、豪華に充実した空間とけだるい空気が充満している。

師斎藤三郎の系譜を窺わせる

老練な筆使いの冴えを見せつけた妖艶で華麗な女性像なのだが、われわれを描かれない物語の世界に誘ってくる。

私なら後期ヴィクトリア朝の、ジョージ・ギッシング『余計者の女たち』あたりの「嫉妬心」を題材としたイギリス文学の空間を想ってしまう。ポーズする女性は、キャンヴァスのこちら側にいるわれわれに羞恥しつつ自慢の肢体を誇示するだけではなく、われわれの背後にいる女性の嫉妬心に満ちた視線を想って勝ち誇ったかのような表情を浮かべている。

豊かに充足した筆致が、

見えない語られない人間関係や物語をも誘い出す。

しかしこうした女性像にありがちな淫靡な雰囲気を持たないのは、時代や場所も特定しがたい神話化された空間構成のゆえだろう。
確かに具象の女性像なのだが、画面の空気は抽象性そのもの。われわれは、描かれた対象を確認するのではなく、

筆致そのものに陶酔すればいい。

シマノフスキの「20のマズルカ」Op.50から第1番、3番…と繊細で神秘的なピアノの響きを拾い出して、それに身を委ねながら眺めてみよう。
この絵の女性は、アルカイックな微笑をとどめたまま、見る者の空想を受けとめて舞い出してくれるだろう。



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