ANNE BOLEYN Museum of Art

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「無窮の夜」 20×40cm パステル・水彩

岡野聡子 Okano Satoko

現代日本美術会会員/審査員

1987 多摩美術大学 絵画科 油画 入学
1991 同大学卒業
1994 個展 六本木 ギャラリーすどう
1995 すどう美術館コレクション展「若き画家たちからのメッセージ '95」
1997 個展 銀座 Gアートギャラリー
1999 個展 銀座 彩林堂画廊
2000 個展 銀座 ギャラリーニケ
2003 現代日本美術会奨励賞



はてしなく広がる溶岩台地に降り立つような、あるいは、はるか高い高度から月面や異なる惑星の表面を鳥瞰するようにも思える風景。

印象としてもまったく異なるのに、

コラージュやフロッタージュの技法で構成しながら都市の遠景といった広大な風景を構成したマックス・エルンストを連想してしまうのだが、作品の実寸に比べて、そこに描かれた世界の広大さに圧倒される。

この作家は、どのような思いで、

この荒涼たる風景を描き込んでいったのだろう。こうした風景には、「地の果て」とか「この世の終わり」といった、よくあるSF的な終末感、寂寥感が漂いがちなのだが、不思議に絶望的な寂しさを感じないのだ。
逆にこの作品には夢で見る世界のような、何か説明のしようもないような途方もなさ、静謐さの中に充満する原初的なエネルギーが感じられる。これは何なんだろう。
サルヴァトール・ローザを引き継ぐ18世紀イギリス絵画が好んで描いた古代の廃墟を連想させるような詩情があるとも言える。

理知的に再構成された神話的な要素とか、

世界創造の物語性、地表面化に蓄積されたエネルギーの予兆も感じる。いや峻険な自然にこそ神の創造性のsublime「崇高さ」を読みとったイギリス・ロマン主義の世界認識のようなものすら感じてしまう。いずれにせよ単純な「物語性」では説明できないもの、寂しい景色だが懐かしいような、音はないのに可聴範囲に入らない低周波の振動エネルギーが伝わるような世界である。
しかし、この足もとの溶岩から飛翔していく視線の見晴らしの広大さは、と考えてみると、やはり心象風景なのだろう。

自分の意識の深層にしまいこまれていて、

デジャヴュ(既視感覚)のようにはっと思い出すようなイメージ、夢の世界のように自分で解析も再構成もコントロールもできないイメージ。われわれの無意識レベルに普遍的に存在する原初的なイメージへと下降して行って、はじめて開けてくるような世界なのだろう。ユング学派が語る「アーキタイプ」の一つがここに現出している、と考えてみれば、この作品の一筋縄でいかない部分が見えてくる思いがする。



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