ANNE BOLEYN Museum of Art

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「寝癖」 変形 30号

石田朱日子 Ishida Akahiko

1974 石川県生まれ
1998 東京芸術大学 美術学部 絵画科 日本画専攻 卒業
1999 個展 日本橋 室町ギャラリー
2000 三渓日本画賞展 入選
    東海テレビ墨画展 入選
    韓・日 青年作家美術展(駐韓 日本大使館 公報文化院シルクギャラリー)
2001 日・韓 若手美術家交流展(駐日 大韓民国大使館 韓国文化院ギャラリー)
2002 グループ展 銀座 すどう美術館



確信に満ちた明快で単純な線で人物の輪郭が描かれている。この描写力、なかなかたいしたものだ。この作者が見せる愛情タップリの視線は、いかにも石田朱日子の周辺にいる人物を題材にしているという感じだ。線だけ見ると、似顔絵、漫画・・といったジャンルとの親近性を思う人もいるだろうが、

一番のポイントは、批評性のなさである。

対象の特性を誇張して、カリカチュアライズし、自分の鑑識眼や慧眼ぶりをアピールするという方向性とは隔絶した、なにか対象を理解しよう、肯定しようという視線が感じられる。
自分の近しい人間を、このように肯定的に愛情を持って凝視できるというのが、石田の人間性なのだろうが、この攻撃性のなさ、戦闘的でないこと、斜に構えず批評をもてあそばないという視線が、現代にあっては、むしろ

新鮮に感じられる。

理屈を振り回さずともいい。「寝癖」という作品を見よう。
テーマは赤ん坊の寝癖でピンと立った髪の毛。自分の姿の面白さもわからない、何も考えていない赤ん坊の無邪気な表情。だが、なによりも赤ん坊を抱いた人物の表情が、実に幸福感に満ちているのにこそ目を奪われる。

実にいい表情だ。

腰に赤ちゃんの体重を乗せている点も実体験を想わせるが、赤ん坊をフワリと抱く姿勢の描写がやさしい。われわれは、幸福な表情を浮かべる人たちに囲まれていれば、嬉しくなってしまうが、こういう絵画は人をほのぼのいい気分にさせる。

こういう視線を持った石田朱日子が、

周囲の人間をモデルにするのではなく、風景を描いたら、あるいは室内、静物を描いたら・・と想像をめぐらせてしまう。対象のどんないいところを、彼は見せてくれるのだろう。対象を肯定的に見る「やさしさ」をもう一歩進めて、英知の光を宿すことになるのではないか。
自然愛、人類愛といった精神性を問われることになったら、「こうすれば、こうなる」という理屈は頭ではわかっているけれど、「わかっちゃいるけど、やめられない」という人間の業の深さを悲しみと慈愛の半眼で見据える仏像の視線にやがていたることを期待しておこう。
その時こそ、石田朱日子の表現が、新たに普遍性の輝きを獲得するはずだ。



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