ANNE BOLEYN Museum of Art

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「月に住む人」 直径30cm 円 制作年/2000
板・麻布に石膏地・テンペラ・油彩

奥秋 由美 Okuaki Yumi

1967 東京生まれ
1995 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
            <大橋賞><台東区長賞>
1997 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻修了
                     <大和銀行買上>
1995〜1997 個展、グループ展、多数
1999 幻想の新千年紀 ぎゃらりぃ朋(銀座)
     個展 銀座スルガ台画廊(銀座)
2000 彩派 ギャラリーニケ(銀座)
     個展 オレゴンムーンギャラリー(江東区・猿江)
2001 凛の会洋画展 東急本店(渋谷)
2003 現代日本美術会大賞受賞



暗黒の空間に浮かぶ球体。木星かな?これはどう見ても地球だ。球体の上半分には須弥山のようなものがあり、下半分にはカタツムリのような、アンモナイトのようなものがあり… かなりヘンテコリンな神話が持ち込まれている。

円盤としての地球をイメージするから、

それを支えるものとして巨大な亀や巨人、その他もろもろのものが語られたわけだが、宇宙空間に浮かぶ球体なら、その地球を支える存在は意味を成していない。それじゃあ、このカタツムリ、あるいはアンモナイトは何なのだ。
古生代を連想させる形象なのだから、宇宙の神秘論や神話が好きな人なら、ルドルフ・シュタイナーでも持ち出してアーカシック・レコードがどうし、こうしたといった話を解読するのだろう。でも、僕が見るところ、奥秋自身、こんな神話を信じて描き込んでいるわけじゃないようだ。球体の渦巻きを見ていると、

これが上目遣いの「眼」だとしたら、

これはずいぶん猜疑心に満ちた目つき、いやな目付き、「疑念」の塊である。
色調から最初に連想したように、これが木星=ジュピターだとしたら、これは神の目。神自身が、自分の創造物である宇宙を疑念を持って睨んでいる。「なんだ、コイツは」と神が猜疑心を宇宙に向けるというのなら、こんどはビッグバンの逆のビッグ・クラッシュがあるばかり。
これはそのまま作家自身の宇宙観なんだろう。終末を期待してるわけでもなく、せっかくの「天地創造」を無に戻せば、そこにあるのは計り知れない虚無と寂寥感だけである。
この作品の一番の特徴は、宇宙空間と見えるのに浮遊感はなく、むしろ周囲から押し込められて身動きできない

閉塞感が画面を満たしていること。

妙に画面の向こうから溢れ出してくる何かがある。
この「眼」のような物体は、宇宙空間に浮遊しておらず、宇宙空間をあまねく満たしている虚無によって押し込められ、ここに身動きできずに止まっている。
ブラック・マターのような虚無によってぎゅうぎゅう詰めに押し込められている閉塞感、窒息感というものを、初めて見たような気がする。



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