ANNE BOLEYN Museum of Art

index



「凪」 和紙・岩絵具 53.0×41.0cm

関 菜穂子 Seki Nahoko

現代日本美術会会員/審査員

1967 神奈川県鎌倉市生まれ
1992 京都精華大学美術学部日本画科卒業
1996 '96三渓日本画賞展(横浜三渓園 神奈川)
1997 個展(CO-OP INN KYOTO 京都)
1998 ART・BOX 日本画新人賞選抜展(ART・BOX 銀座)
     '98三渓日本画賞展(横浜三渓園 神奈川)
     臥竜桜日本画大賞展(岐阜美術館)
     個展(アート・デ・アートギャラリー 高槻市)
1999 播磨文化新人賞
     個展(ガレリア・ピカロ 大阪)
     個展(ぎゃらりぃ朋 銀座)
     個展(T・BOX 銀座)
2000 個展(ぎゃらりぃ朋 銀座)
     個展(大黒屋百貨店 福島)
     個展(岡島百貨店 山梨)
2003 現代日本美術会会員推挙賞
2005 現代日本美術会会員努力賞



この作家の描く女性像は、色調の美しさもさることながら、

モルフォ蝶の鱗粉の輝きを思わす

妖しいマチエールに特徴がある。金箔や顔料の技法が、この燐光を放つ効果を出しているのだが、光源を得ているような輝きに目を奪われてしまう。

夢見るような陶酔するような

女性の表情は、静謐で幸福感に満ちていてる。色彩はまさに夜想曲の世界なのだが、ショパンの夜想曲に隠された激情や屈折した心理とは一線を画した、清楚な上品さと透明感をたたえている。夜の雰囲気でも、ルドンのある種の作品に見られるような、人間の心の深奥に抑圧された危うい幻想とは無縁なのだ。
しかし、こういう上品さ、生真面目さ、繊細な美しさばかりに目を向けて、そして、まさにこの形容詞通りのフィールドの晩年の夜想曲をバックミュージックにして彼女の作品を眺めていると、何かこの作家の肝心な部分を言っていない気持になる。「お洒落さ」と言うべきか、何と言うべきか、言葉を探して山田登世子「ファッションの技法」をひっくり返していると、哲学者ジンメルが流行論で用いたcoquetという言葉に出会った。coquetは「媚びる」といったマイナスの意味ではなく「お洒落」系列のプラスの意味の言葉。

誘惑者としての女性が

技法として用いるイエスとノーのあやうい遊戯・・意外に奥行きとひねりがある表現である。山田の議論はプルーストの小説「花咲く乙女たちのかげに」にまで及んでいるが、なるほど、こういう女性のcoquetという要素、戦略を秘めた余裕のようなものを関作品に見出すべきなのかもしれない。
個展案内の葉書の写真を見て驚いたのだが、実物にあるマチエール効果を剥ぎ取ってしまうと、あの夢見るような女性像の腕、肩の筋肉はしっかりしていて弱々しいいものではないのだ。理想化された虚像としての女性像ではなく、リアリティーに支えられた実在感溢れる肉感的な身体表現なのである。

この見る者を魅惑と陶酔に誘うような

女性像の下地には、このような存在感、生命力、エロティシズムが隠れている。こう考えると、関菜穂子作品のうっとりするような夢幻的女性像に、coquetな身体表現のしたたかさを感じてしまう。



index