ANNE BOLEYN Museum of Art

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「永久機関01-1」 銅版 30.0×21.0cm

大矢雅章 Oya Masaaki

現代日本美術会会員/審査員

1972 神奈川県生まれ
1998 多摩美術大学大学院美術研究科絵画専攻修了
1996 個展 同和火災ギャラリー 東京
1997 第65回日本版画協会展(以後毎年出品)
     台北国際版画及素描ビエンナーレ(台湾)
     THE FIRST MINI-PRINT BIENNIALCLUJ[大賞]
     現代版画コンクール/CWAJ展
     ソウル国際ミニプリント・ビエンナーレ 佳作賞
     個展 大手町画廊 東京
1999 ノーウォーク国際ミニチュアプリントコンペティション 買上賞
     ウッジ国際ミニプリント・トリエンナーレ
2000 個展 大手町画廊 東京
     第8回浜松市美術館版画大賞展 浜松市美術館 SBS放送賞(第2席)
2001 個展 ギャラリー・スペース・M 前橋
     個展 平安画廊 京都
     第35回現代美術選抜展 岐阜、愛媛、岡山、青森 文化庁主催
     第3回東京国際ミニプリントトリエンナーレ運営委員
2002 個展 養清堂画廊 東京
     個展 楓画廊 新潟
     文化庁国内インターンシップ研修員
2003 個展 ギャラリー・スペース・M 前橋
2004 個展 養清堂画廊 東京
     現代日本美術会奨励賞及び会員推挙賞受賞
2005 現代日本美術会会員努力賞及び審査員推挙賞

     日本美術家連盟会員・日本版画協会準会員



素描のような版画。アンバランスに長い、燃え残った木炭のような物体。画鋲のような、釘のようなものがてっぺんに残っているのだが、こうした形象のどれもが記号や象徴として意味を構成しているわけではない。

描かれているものの正体が、

一体、何であるのかさえも認識できず、記号や象徴としての「意味」の解読もできないけれど、「燃え残った…」と書き始めたように、時間の経過、追想、わずかに温かみを残した情念のくすぶりといったイメージは、全体の色調、形象が醸し出す雰囲気としてストレートに伝わってくる。

このように情緒は濃厚に存在している。

どうしてだろう、共通すると思える部分などないのだが、僕には、松本竣介の素描の人工的なものでこれ以上ないほど緊密に構成された乾いた叙情性と、ひんやりとした空気を感じてしまう。たぶんこの作家の知的な画面構成力のなせる業なんだろう。
でも、正直に言ってしまうと、燃え残った木片のてっぺんにある釘のような形象を観ていると、松本竣介の「橋」「鉄橋近く」といったデッサンばかりか、「市内風景」とか「工場」といった油絵作品までもが連想の射程に入ってきてしまうのだ。作品を見ながら、別の作家の作品を思い出すというのも失礼な話なんだが、もっと言ってしまえば、あの洲之内徹が「気まぐれ美術館」で途方もない情熱で追跡した「松本竣介の風景」の文章と写真を思い出してしまうのだ。整理の悪い古本屋顔負けの乱雑さをきわめた僕の書斎のどこかにあるはずなのだが、あの文庫本の白黒写真を眺めながら、たしかに鮮烈な色彩とともに原作を思い出していた覚えがある。
同じように大矢作品を見た後で、その作品画面を思い出そうとすると、どうしてだか竣介の切なくなるような青だとか、壁の陰影に富んだマチエールを鮮明に連想しているのだ。大矢作品に色などないのに。

色彩を排した黒と禁欲的な画面の質感が、

微妙な時間のズレをもって豊かな色彩とマチエールを想起させる。何の写像とすら認識できないフォルム。画面に仕掛けられた記号もそれと解読できないのに、きわめて知的に抑制を効かせて、物語を内包した叙情性を紡ぎ出す。この作品、見た後の僕の心の中で成長を続けている。一筋縄でいかないなぁ。



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