ANNE BOLEYN Museum of Art

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「内層」 wood 49.5×49.5×11.5cm

山本秀明 Yamamoto Hideaki

1950 北海道松前生まれ
1975 横浜国立大学美術科卒業
1996 個展 再生されていく自然観 かねこ・あーとギャラリー 京橋
1997 個展 対話-いのち・かたち- かねこ・あーとギャラリー 京橋
1998 個展 時の流れ・表出 かねこ・あーとギャラリー 京橋
1999 さまざまなかたちを楽しむ展 すどう美術館 銀座
    個展 時の流れ・痕跡 かねこ・あーとギャラリー 京橋
2000 現代日本美術展 上野
    個展 時の流れ・痕跡 ジ・アースミュージアム 町田
    個展 時の流れ・痕跡 ギャラリー大黒屋 黒磯
    個展 時の流れ・痕跡 ギャラリームーブ 横浜
    個展 内層・ゆらぎ Oギャラリー 銀座
    個展 内層・ゆらぎ ぎゃらりかの子 大阪
2003 個展 かねこ・あーと 2 ギャラリー 京橋



前衛スタイルの木彫の小品であるが、その削り込まれた木の質感に驚かされる。

なんとフンワリ柔らかいのだろう。

木の粒子を凝縮させて作り上げた、ある種の塑像のようにさえ見えないこともない。木という素材が持つ、生命ある細胞の持つ温かみを感じる一方で、その細胞が結合力を失って砂の塊のようにポロポロと風化して飛散していくという、「時間の経過」とか「滅びのプロセス」といったイメージを思い浮かべてしまう何かがある。薄い板が重ねられたように切り込まれた表現など、遺跡の発掘でハケで土を払っていると、そこに知られざる古代の文明の中で人工的に手が加えられた痕跡を発見するような感じがする。
作者は、角材を積み重ね、それをあの質感を出すために丹念に削って、地層のごときものを作り出す。

地層を連想させることにより、

降り積もる時間の経過をイメージさせようというdesignだとすぐにわかるが、その先の表現の記号性はなかなか解読できそうにない。ところがこれが、作者自身も「発見」に驚こうとしているのではないかと思えて、むしろ作品の魅力となっている。
作家が、自分のdesignとhide&seekをしているという屈折した感じがたまらない。あたかも「全体を見渡して把握している自分の構想designを表現する手段としてこの造形を作り上げたのではなく、

私の中に胚胎した

conceptionイメージが成長し、自己展開していって構想化conceptualizeしたもの」などと言っているかのように思えてしまう。おそらく制作の過程であの古代文化の痕跡に見える切り込みも、作家の意図を離れて破損したりもしたのだろうが、やがてこの木材が乾燥し、枯れ、あるいは水に濡れて腐食していったら・・と、進行中の目に見えない変化を考えてしまう。
一連の「内層」シリーズでも、以前の作品では、古生代の三葉虫の化石を連想させる硬質な印象が強かったが、この眼前の作品群も化石を連想する要素に満ちている。宮崎駿の「風の谷のナウシカ」に出てくるオームなる生物を思い浮かべる人もいるかもしれない。

化石という堆積する土砂で本体が

押しつぶされ、圧縮され、硬質化したものと矛盾する柔らかい質感によって、むしろナウシカ的な「遠い未来世界に残された、現在という“過去”に滅亡した生命の痕跡」といった屈折した想像をもたらすのだろう。この作家の文明批評的な危機意識、焦燥感が生命の物語を刻みつけているのだなと感じてしまうと、内角高目にストレートをズバッと投げ込まれたような気分になる。



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