ANNE BOLEYN Museum of Art

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「裏庭へ」 oil & oilpastel 73.0×60.5cm

さとう陽子 Sato Yoko

1958 東京生まれ
1981 日本大学芸術学部卒業
1986 個展「LAND」Gアートギャラリー 東京
1988 個展「刹那の構図」ギャラリー+1 東京
1990 個展「日常のはざまに関して」Gアートギャラリー 東京
1993 個展「呼吸法-表面張力」ギャラリー檜 東京
1994 個展「光張-所作」ギャラリー檜 東京
1997 個展「身体の建築物」Galerie de Cafe伝 東京
1998 個展「所作の場」ギャラリー檜 東京
2000 個展「所作の建築体」かわさきIBM市民文化ギャラリー 神奈川
2001 個展「裏庭へ、」ギャラリー檜 東京
2003 個展「不用の間」トキ・アートスペース 東京
2004 「日本・チェコ国際交流展」(Galerie Kritiku・プラハ)



カンヴァスの青く塗られた地の部分に、一見、落書きのようなクレヨン状の白い線描きの模様があったり、乱暴に白い面を作りだそうと塗りたくってあったり・・。でも、さとう陽子作品は、

印象に残る青でわれわれの足を止めさせる。

立ち止まってゆっくり眺めてみよう。先ほどメチャクチャにかきなぐったように見えた線は、意外にゆっくりとした速度できわめて意識的になぞられている。意識的に描かれたものなら記号だろうか? ナスカの地上絵のように見えないこともないが、逆に天空に現れた地上への信号なのかもしれない。そう、やっぱり地面に寝転んで上空を見ている感じかな?しかし一体、誰に見せるための、どんなメッセージを発信しているのだろうか。

しばらく眺めていて気がついた。

この形象は、何かの存在を写し取ろうとしたものでもなく、対象を分析的にデフォルメしたものでもなく、まして自分のメッセージを記号化したものでもなさそうだ。自分の視線の軌跡を丹念にたどりつつ、心の中に浮かび上がってくる想念が形象を出現させるプロセスを描こうと試みて、しかも垣間見えてきてしまいそうな自分の心の深淵のリアリティーにたいして、急ぎ壁を塗り上げて、自ら目隠ししようとしたもののように見えてくるのだ。
さとうは、永遠の深みを思わせる地の青と、手前の表面に塗り上げた壁との間の空間に一体、何を垣間見たのであろうか。

確信に満ちたような

線の描写を眺めていると、カンヴァス上に位置をきめ、移り行く自分の想念さえ自覚的に構成してやろうというこの作家の情念の熾烈さを感じる。反面、その作業から見えてくるかも知れないものへの恐怖感が伝わってくる。

こんなに澄んだ青を

描く作家の心の中にも、やはり自分で見るのが恐いような情念があるのだろうか。画家魂の業の深さと葛藤を感じる作品である。



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