ANNE BOLEYN Museum of Art

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「痕跡 6576」 木版・孔版・monotype 30.0×30.0cm

日下 芝 Kusaka Reishi

1968 北海道生まれ
1992 創形美術学校卒業
1995 感動創造美術展'95(新潟市美術館)
1997 個展 GALLERY-17(芝浦)
1998 現代日本美術展(東京都美術館・京都市美術館)毎日現代美術大賞
    埼玉県立近代美術館賞
    第3回昭和シェル石油現代美術賞(目黒区美術館)
    第5回小野画廊'98現代美術小品展(小野画廊・銀座)佳作賞
1999 平成10年度第4期常設展(埼玉県立近代美術館)



和紙に四つの正方形の影が配置され、それが空間の構造をコンポジションしている・・とだけ説明してしまうと、実際に作品を見ない人はいかにもよくある作品と思うだろう。しかしこの作品は、

奇妙に想像力をかきたてるのだ。

基本的には白黒なのだがセピア色がかった微妙なくすみかたをしていて、色合いといい正方形というフォルムといい、なにか厳格、宗教的なくそ真面目さが漂う。同時に私は、向こう側から染み出してきて画面を侵蝕ようという気配を感じてしまった。これはなんだろう?
輪郭のにじみ具合は、たとえば細菌やカビの繁殖のような広がりなのだが、なぜか垂直方向からの侵蝕を想像する。

しかもコンピュータ・ウィルスが

データを破壊して画面を崩壊させるのなら、こういう影が画面を侵蝕して、やがて真っ暗になるんじゃないかな、とイメージさせるもの。実際には存在しないデスクトップの裏側の、深い奥行きから押し寄せてくる侵蝕力。そんな気配を感じてしまう。
困ったな。こういうバーチャルな虚ろさには、旧約聖書の「伝道の書」にあるニヒリズムと同じく、ボディーブローのように効いてくる何かがある。『私は自分の心に言った。「さあ、快楽をもって、お前を試みよう。お前は愉快に過ごすがいい」と。しかし、これもまた空であった・・』抽象の表現なのに、軽薄に日常を過ごしている自分を我に戻して、反省を迫るような作品もあるんだなぁ。
どうやらこのにじんだ正方形の影は、

心を侵蝕する影なのだ。

ニヒリズムは遠い向こうからではなく、気がつけば表面にこびりついて広がりつつある。小品なのに重いパンチをくりだしてくる。



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