人形劇はいくつから楽しめる?(’10 8/20)

 さて、人形劇はいったいいくつから楽しめるのでしょうか?
 これは、なかなか難しい問題です。
 もちろん私は、「3ヶ月から楽しむことが可能であろう」という考えで赤ちゃん向けの人形劇を作って活動を始めたわけです。その根拠は、自分が自分の子と接したり、子育ての過程で読んだ色々な書籍など資料を元にそう考えたのです。そして、実際にうちの子は3ヶ月の時に地元で行われた私の人形劇公演を観劇していました。ただ、この時は独立前で、作品は人形劇団京芸ばるおじさんのわくわくシアター「ぞうくんのさんぽ」他です。お話は3つで、人形劇、紙芝居、人形劇。約45分。それを全部見ていたわけではなく、時には寝たりしながらも母のひざ上で楽しんでいたそうです。観客は乳児だけではなく、幼児・小学生から大人も沢山来られていました。
 「3ヶ月から」と思っているのは集団へお出かけする体験のし始めとして、3ヶ月くらいからが妥当でないかと思うからです。乳幼児の視力に関しては未発達な面もあるようですが、個人差もあると思います。散歩へ連れていったりする時の感じなどで、少なくともうちの子はそれ以前から充分見えていると思いました。大きな問題は「首のすわり」ではないでしょうか。3ヶ月からというとまだ首のすわりが充分でない子も多いと思います。うちの子も親はすわってきたかと思っていても健診では不十分と指摘されたりしました。いずれにしても、親が支えたお座りにしろ長時間すわって前を向いているのは無理なことです。3ヶ月では、寝ている子もいるのは当たり前。でも、寝ている子にはそれなりに感じられるようにするアプローチの方法があるのではないかと思います。寝ている子にも見えるように近づくとか、音楽とか。保護者の息遣いとか。
 さて、そして内容です。何を見せるのか? 人形劇って何か? 保護者が直接語りかけるアプローチ以上に舞台芸術として何を届けるのか。まず注意したいのは、今まで多くの劇団とかが小さい子に向いているだろうと思って創ってきた作品の中にはかなり無理な(3才程度の生活習慣をベースに考えられた)作品が結構あるなぁということです。たとえば、これは何だろう?と問いかけていくような作品。問いかけても良いんですが、乳児にはその答えを考えるベースは形成されていないので、答えは期待できません。そのモノ自身がしっかり現れて動く方が伝わると思うのです。またたとえば、有名なアオムシのお話、なかなか良いのですが、ケーキやお菓子をいっぱい食べるというところは(乳児には)わけがわからないと思います。もちろん乳児は食べることは未経験ですが、何かを口に入れる(摂取する)ということは感覚的に分るのではないかと思います。ただそれが行き過ぎるあのシーンは「?」になるでしょう。「?」を排除する必要はないと思います。乳児の分ることだけで構成する必要はありません。でも、そこを伝えたいならば、無理があると思います。同じくお話の中に飴やペロペロキャンディーが出てきて魅力的な物という前提で進められるお話も、やはり2才前の子には「?」な内容でしょう。その時、登場人物がそれらを魅力的と感じ、美味しく食べる姿を見せることが大切と思います。
 乳児の見立て力については、「かなりある」と私は感じています。生まれたばかりから、身の回りには簡略化された絵やキャラクター・人形・おもちゃがあり、それを楽しむ力はけっこうなものだと思いました。たとえば、鈴の入った手首に巻くくまちゃんの人形。くまちゃんがくまちゃんとして動くことを、うちの子はかなり小さい時から楽しんでくれました。ただ、注意するべきは決して本当の熊を理解してそのキャラクターとしてのくまちゃんを楽しんでいる訳ではないという(当たり前の)ことです。 乳児は、くまでも、うさぎでも、ぞうでも、ネコでも、イヌでも、その動物が好きなわけではなく、それらの動物を元に大人がキャラクター化した動物たちを楽しむことができるということです。ということは、人形というキャラクターたちが生きる姿を楽しむ力があるということでもあるなのです。 子どもが、キャラクター化される前の本物の動物の姿をテレビにしろ写真にしろ目にするようになるのは、もう少し大きくなってからの事が多いのではないでしょうか。簡略化された形象の方が馴染みやすい。それはたいへん人形劇的な面です。
 親しみやすい人形がその場でしっかりと生きて動き、生活的常識をベースに考えることを要求しない展開で(赤ちゃんがまだ経験していないことを乱暴に盛り込まない)、人形自身が経験していくお話ならば、乳児にも伝わると私は思っています。
(佐和明生)